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2018.10.25

第10回 統一地方選前に住民の手で公開討論会の開催を!〜自治を実践する浦安市と小平市、流山市の住民たち〜

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【インタビュー1】

一般社団法人「リンカーン・フォーラム」内田豊・代表理事に聞く

 民間主催による公開討論会の普及と開催を支援する一般社団法人「リンカーン・フォーラム」の内田豊・代表理事に話を伺った。

一般社団法人「リンカーン・フォーラム」内田豊・代表理事 一般社団法人「リンカーン・フォーラム」内田豊・代表理事

──「リンカーン・フォーラム」は投票率を向上させることを明確な目標として掲げていると聞きました。
 そうです。私が公開討論会をやろうとしたのも「なぜ投票率がこうも低いのか」という疑問からです。各種のアンケート調査を見ると、低投票率は単に有権者が無関心だからというものではないのです。選挙に行かない理由の1位は、「政治に関心はあるが選びたい人がいない、ないしは、選ぶ判断材料がなくて分からない」です。そのあとに「選挙に行っても何も変わらないと思うから」や「関心がない」が続きます。つまり、有権者に投票の際の判断材料となる情報をしっかり提示することが重要となります。それで民間の手による公平・中立な公開討論会の開催をとなるのです。
 当初、私たちは公営の立会演説会の復活を目指す取組みも行い、私案の作成などもしましたが、3、4年でそれは必要ないと判断しました。自分たちが開く公開討論会が軌道に乗ってきたこと、そして、自分たち(民間)が公開討論会を開いた方が、お上が主催するものよりずっと面白いものになるからです。私たち民間がやることを(法律の規制などによって)邪魔しないでほしいと思います。

──公職選挙法は細かな規制が多く、候補者を集めた公開討論会を開催するのは法に抵触する危険性など、何かと大変ではないでしょうか。
 そんなことはありません。リンカーン・フォーラム方式の公開討論会であれば、公職選挙法に抵触しません。開催にかかる費用も5万円から10万円くらいで、1人で公開討論会を企画して開催する方も、全国に何人かいます。
 選挙時の公開討論会には2種類あります。1つは、告示(公示)前に立候補予定者を集めて公平・中立に行う「(狭義の)公開討論会」です。もう1つが、告示後の選挙運動期間中に候補者を集めて行う「合同・個人演説会」です。こちらは選挙運動とみなされますので、いろいろな法規制がされていました。それが2013年の公職選挙法改正でインターネット選挙が解禁されたことに伴い、合同・個人演説会などへの規制も一部解禁されました。それでぐっとやりやすくなったのです。例えば、ウェブサイト上での合同・個人演説会の告知がOKとなり、会場内でのポスターや看板などの規格制限もなくなりました。ウェブサイトで(狭義の)公開討論会の動画をアップすることもできるようになりました。

──以前よりも住民主催の公開討論会がずっとやりやすくなったのですね。そうはいっても、大勢の人が立候補する地方議会議員選挙の公開討論会は難しいのではないでしょうか。特に、大選挙区制で、しかも議員定数が多い市区町村の議員選挙では。
 過去に22人の立候補予定者が壇上に勢ぞろいして公開討論会を行ったケースもありました。確かに地方議会議員選挙では立候補予定者が多いので、運営方法の工夫が必要となります。出席する立候補予定者が7人以下でしたら、オーソドックスな公開討論会方式で構わないと思いますが、7人を超える場合は立会演説会方式の方がよいと思います。まず全員に2分程度のスピーチをしてもらい、その後に◯×式の質問をしたり、補足説明をしてもらったりするやり方です。

──地方議員選挙の公開討論会を主催する場合の留意点は、ほかにどんなものがありますか。
 テーマ設定ですね。国政に関することを議論しても仕方がありませんので、例えば憲法改正の是非などはNGです。それからどの選挙にも共通する最も大事な点が、出席交渉です。立候補予定者全員に声をかけて、できるだけ多くの方に出席してもらうことです。それからもう一点。とにかくたくさんの有権者に会場に来てもらうことです。集客です。ただそのときに「選挙できちんとした人を選ばないといけない」とか「地域のことをもっとキチンと考えよう」などと言って勧誘してはいけません。そうではなくて「公開討論会は私が主催するので、絶対に面白い。だから来てください」と言って誘うのです。大事な会だからではなくて、面白いから参加してみてと声をかけることがポイントです。実際、(私たちが行う)公開討論会はとても面白くなるので、(声をかけられた)有権者はとにかく参加してみることです。

──では立候補予定者の留意点は?
 公開討論会に出ると選挙に有利になりますので、万難を排して出席すべきです。参加した人と欠席した人の当選率に大きな差が出ていて、前者の方が高いというデータもあります。参加するに当たっては、事前にしっかり勉強してください。当日は自分の問題意識を自分の言葉で語ってください。原稿を読み上げてはいけません。心がこもっていないと感じられてしまいます。自己紹介のコーナーでは政策を語るよりも、自身のことを話してください。有権者は政治家をうさんくさいものと思っており、政策よりもその人物が信用できるかどうかに着目しています。
 私たち(公開討論会の主催者やコーディネーター)は、出席した全ての候補者を光り輝かすことを心がけています。その人が持っている力を存分に発揮してもらえるように、目いっぱい話してもらいます。そのためのフォローをします。候補者を腐(くさ)したり、追い詰めたり、掲げた政策を会場で採点したりはしません。「リンカーン・フォーラム」では、(討論会の進行役を務める)コーディネーターの初心者に「どの候補者に対しても公平・中立な進行に努めてください」と指導していますが、ベテランに対しては「全ての候補者の応援団になって会を進行してください」と伝えています。出席した立候補予定者などの話を聞いた上で一人ひとりの住民(有権者)が投票先を判断するわけですから。

──なるほど。
 公開討論会に参加する住民の多くは、最初、椅子にふんぞり返って話を聞いています。「誰が一番よいか見極めてやる」といった評論家のような態度なのです。しかし、立候補予定者らが地域の課題などについて真剣に語り出すと、彼らは前のめりになって耳を傾けるようになります。メモを取り出す人さえ現れます。会場内の雰囲気がガラリと変わるのです。政治や選挙が自分たちの日常生活に直結するもので、日常の課題の解決につながるものだと気づくからです。公開討論会は有権者に投票の判断材料を提示するものだといいましたが、それはほんの一歩にすぎません。それだけではなく、有権者にとって気づきの場であり、学び、育つ場となるのです。むしろ、こちらの方が重要です。また、いうまでもありませんが、ライブによるガチンコ勝負の公開討論会は、候補者を鍛える場でもあります。でも、公開討論会で一番鍛えられるのは、主催者だと思います。

──それはどういうことですか。
 私は以前、すばらしい候補者を当選させて日本を良くしたいと思って活動していました。ですが、「この候補者はすばらしい」といくら声を枯らして活動しても当選できず、仲間同士で敗戦の責任をなすりつけ合い、けんか別れをした経験があります。政治意識が高いとされる人たちの思い上がりで、よくある話です。その後、小田さんが創設した「リンカーン・フォーラム」の活動を知り、1997年の市川市長選で初めて公開討論会を主催しました。
 公開討論会では特定候補の応援など一切せず、公平・中立に行いました。すばらしい候補者がいたとしても「この人はすばらしい」などと言わず、全ての候補者に光を当てたのです。そうすると、優秀な候補はおのずと光り輝き出して、有権者にきちんと評価されたのです。そのときに「誰かを応援するよりも公平・中立の場を設定し、有権者の判断能力を信頼する方がよい」と実感したのです。そのときの市長選の投票率も大幅にアップしました(1993年の市長選より7.73ポイント上昇)。
 公開討論会のポイントは、たくさんの人が一緒になってライブで生の話を聞くことです。そして、候補者と有権者の間で魂の響き合いが生まれ、会場内に磁場のようなものができるかどうかです。有権者にせめて4年に一度、公開討論会の場で選挙や地方政治を真剣に考えてもらいたい。公開討論会で有権者をワクワクさせて、投票行動に結びつけたいと思っています。

この記事の著者

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