2018.10.25
第10回 統一地方選前に住民の手で公開討論会の開催を!〜自治を実践する浦安市と小平市、流山市の住民たち〜
公開討論会を主催して分かった選挙の実態と欠陥
「無手勝流でやってみましたが、魅力ある候補者が少なくて、面白くなかった。立会演説会は候補者を鍛えることになると思うが、次の選挙に勝つために議員活動している人が多すぎる」
こう嘆くのは、千葉県流山市に住む突田芳宏さんだ。
民間企業を定年退職した突田さんは、現在、70歳。2015年4月に数人の仲間と市議選の立候補予定者を集めて「公開政策交歓会」を開催した。もちろん、初めての試みで、リンカーン・フォーラムがホームページ上に公開している「公開討論会実施マニュアル」などを参考に、手探り状態で準備に奔走した。ポスターや選挙カーからの連呼、一方的な街頭演説などでは候補者の見識や人格は分からず、判断できないとの思いからだ。しかし、突田さんらの熱意は候補者たちに伝わらなかった。立候補予定者の欠席が相次ぎ、「公開政策交歓会」は盛り上がりに欠けてしまったのである。
有権者の前で語るべきものがないのか、出席をとりやめる立候補予定者が続出した流山市での公開討論会。
流山市議会の定数は28。2015年の市議選には37人が立候補したが、公開討論会に出席したのはわずか7人。このうち6人が新人(当選したのは2人)で、現職候補には相手にされなかったのである。会場に詰めかけた50人ほどの市民も落胆の色を隠せなかったという。「開催の日が近づくにつれ、出席をとりやめると連絡してくる現職議員が相次いだ。出席しても票にならないと思ったのではないか」(突田さんの指摘)。
しかし、突田さんは初めて公開討論会を開いてみて、いろいろ気づいた点や実感したことがあるという。例えば、後援会頼みやパフォーマンスばかりの議員、さらにはどぶ板仕事が自らの役割だと信じている議員が大勢いること。そして、その程度の議員で十分だと半ば諦めてしまっている有権者が多数いることも痛感したという。初めての公開討論会で苦い思いを味わった突田さんは、ズバリこう指摘する。「市議の多くが職責意識は低く、選挙活動は熱心。それも自分の政策や識見を語るのではなく、パフォーマンス中心だ。総務省以下、選挙管理委員会も意義ある選挙にしようとする意識が欠如している。立会演説会を開催すべきだ」。
選挙のあり方を変えることが自治の再生への第一歩
今の選挙のあり方が議員の劣化を生み、自治そのものを後退させているといってよいだろう。有権者にとって必須な候補者情報を遮断し、民主主義の根幹である選挙をパフォーマンスにおとしめているのが、今の制度の本質ではないか。公営選挙(町村を除く)を掲げ、公金でポスター代や選挙カーの諸費用などを賄っているが、果たしてそれが有権者にとって必要不可欠なものだろうか。優先すべきは、候補者の政策や識見、人物といった情報がきちんと有権者に届くような環境整備であろう。その1つとして公開討論会の開催が挙げられるが、公開討論会の意義は有権者への候補者情報の提供にとどまらない。地域の課題などについて真剣に語り合う公開討論会の場が、自治の担い手の再生につながることになるのである。リンカーン・フォーラムの内田豊・代表理事は「公開討論会は一般的に候補者の政策を比較・選択する場と解釈されていますが、実際は関わる全ての人(参加する住民・候補者・主催者)にとっての学びと啓発の場となります」と、指摘する。