2018.10.10 条例
第40回 議会基本条例の評価・見直しはどう行うか
回答へのアプローチ
議会基本条例を定めるときには、それなりの議論をして、住民の意見にも耳を貸していたというのですから、住民の中には、改革がどうなっているのか関心を持っている人もいることでしょう。ただ、Bのような心配はご無用です。「したふり議会」であることに多くの住民は気がついています。気がついていない(気がついていないふりをしている)のは、むしろ、一部の議員の方なのです。ただ、第三者機関に厳しい意見をいってもらっても、その意見を基に議会が見直しを行うことは難しいかもしれません。「したふり議会」といえども、住民の代表としてのプライドがあります。第三者機関の委員の先生方によほどの信頼を寄せていないと「実務が分かっていない」とか「うちの議会の伝統に反する」などと、意見が葬られてしまう可能性があります。議会が外部の意見に真摯に耳を傾けるのは、その案件がかなり専門的、技術的なことか、さもなければ世間を騒がせた不祥事が起きたときぐらいということを知っておかなければなりません。
改革は、自らがその必要性を感じていない者には行うことはできません。これは基本中の基本です。まずは、議会(議員)としての自己評価をする必要があります。「したふり議会」の中にも、問題を感じている議員はいます。また、本当に「したふり議会」であることに気がついていない議員もいます。議員同士で現状を認識することは、議会が評価するという土壌をつくるためには欠くことができないことなのです。外部の大学教員に評価を行わせた議会として諫早市議会が有名ですが、これも、議会での評価を基に検証したものとなっています(※)。そして、自己評価と第三者機関の評価とを併せて住民に示すことが必要です。Cを回答としたいと思います。
実務の輝き・提言
事務局職員も、住民のために仕事をするということでは議員と同じです。少しでも住民のための議会改革を支えたいという最後のご奉公さんの思い、よく分かります。議会基本条例の評価や見直しは議員がするしかないとしても、評価や見直しを議会のスケジュールに入れるよう上手に働きかけたいものです。
議会基本条例には必ずといっていいほど見直し規定が置かれています。法制的なことをいえば、本来、見直し規定は附則に置かれるものです。制定時の条例の内容が見直しの対象となるからです。それをあえて本則に置くというのは、恒常的な仕組みとして見直しを捉えるという意味合いがあります。それを理由に議会としての議会基本条例の評価と見直しを議長や各会派の代表者に提案してはどうでしょうか。特に、一般選挙後、新しい議会が招集され、新議長が誕生したときがチャンスです。新議長も議会改革について、前向きな姿勢を示したいと思っているはずです。
事務局としては、評価のためのシートのたたき台づくりに協力するなど支援をしましょう。力ある議会なら、早稲田大学マニフェスト研究所議会改革調査部会編『あなたにもできる議会改革』(第一法規、2014年)に掲載された議会改革PDCAシートを使うのもいいと思います。ただ、「したふり」議会には少し重いかもしれません。まずは、もっと簡単なものでもいいでしょう。条文ごとに、これまでの実績と、それぞれの議員(会派)が今後の課題だと思うことを書き込めるだけのシートでいいと思います。最初は点数で表現するのはやめておきましょう。点数をつけるという楽な方法で「評価」をした気分になるので危険です。議論の前提となる「記述をすること」が大事です。だんだんと議会が評価に慣れてきたら、少しずつシートを詳細化するといいでしょう。北海道の福島町議会や芽室町議会が行っている評価を基にした改革の行動計画づくりまでつながる準備になります。この点は今後の議会自身に期待することにしましょう。
個々の議員の自己評価(場合によっては、各会派の自己評価)を議会としてまとめる作業はやっかいです。しかし、この過程こそが大事なのです。それぞれの議員や会派がまず改革について見識を深めることが、今後の議会改革の推進力にもなります。各議員の評価を掲載して議会の評価に代えることは、してはいけないことです。事務方もどのような表現で評価するかなど、その調整が大変だと思いますが、最後のご奉公さんが残した「見直しの風土」は、数年後には大きな改革の花を咲かせることになるでしょう。
提言
昔、物理の授業で「慣性の法則」というものを習ったことがあります。「止まっているものを動かすには力が必要だが、動き始めたものはそのまま動き続ける」というものです。この法則は議会にも当てはまります。議会というのは、一度定着すると継続して行われ続けるという特徴があります。議会基本条例の評価と見直しも、「見直し風土」ができれば働き続けることでしょう。
見直し規定は、本来なら「見直しの視点」や「見直しの時期」が書かれてこそ、意味があります。というのは、必要な見直しを行うことは見直し規定がなくても当然のことだからです。最後のご奉公さんの議会でも、「見直しの風土」が定着したら、見直し規定の見直しを議論のテーブルに上げてみるのはどうでしょう。
事実、見直し規定がキッチリしている議会では、見直しもキッチリ行われています。
○福島町議会基本条例 |
○登別市議会基本条例 |
それから、もうひとつ。もし、議会基本条例制定に当たって議会改革推進委員会などの推進組織が置かれている場合には、議会基本条例制定後もその組織を存続させることです。「どこで議会基本条例を評価し、見直すかということ」を一から議論することは意外に大問題です。登別市議会のように、見直し規定に書き込む場合もありますが、そうでない場合には、受皿としての組織を存続させておくのがいいでしょう。
残りの在任期間中、見直し風土を残せるよう、最後のご奉公さんのご活躍を期待しています。
(※)長崎ウエスレヤン大学の教員2人が担当しました。検証の結果(検証の方法についての記述も含みます)については市議会のウェブサイトから見ることができます。