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2018.09.25 若者参画

第9回 投票率向上に立ち上がった若者と子育て世代〜市川市と松戸市〜

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【インタビュー1】

「若者とママの投票率向上委員会 in 市川」石川紗樹・共同代表に聞く

 市長選への市民の関心を高めたいと、たった2人で活動を始めた石川紗樹さん。2人の子どもを育てるママさんは、ずば抜けた行動力と表現力で貴重な情報を集めて発信した。

「若者とママの投票率向上委員会 in 市川」石川紗樹・共同代表「若者とママの投票率向上委員会 in 市川」石川紗樹・共同代表

──どのような経緯から「若者とママの投票率向上委員会 in 市川」を立ち上げたのですか。
 市川に生まれ育った私は、市川で2人の子育てをしています。子どもたちとキャンプや観劇といった体験活動を行うNPOに加わり、地域活動を続けています。私の子どもが小さいときはそうでもなかったのですが、今は市川市でも保育園の不足が大きな問題となっています。待機児童の数が全国でもワースト上位にランクインしてしまいました。私は政治のことはよく分からないのですが、これって政治の問題なのではないかと思い、ずっともやもやしていました。(住民が)もっと政治にコミットした方がよいのではないかと……。
 でも、周りにいるNPOの先輩たちは政治には関わりたくない、議員になる気もないとおっしゃるのです。皆さん立派な方たちなのに、政治には関わらず、別な場所で活動するというのです。政治や行政のことをよく知っている人たちがです。それにびっくりしました。

──日本社会は政治に関わることを特別視する傾向にあります。政治へのアレルギーです。
 こっち(NPO)側はきれいな世界で、あっち(政治)側は汚いものといった意識があるようにも感じました。それに「(汚い)政治に少しでも関わりのあるような団体だと誤解されてしまったら困る」といった感覚もあるみたいです。日本って、ごく普通に政治の話をすることなんてなく、政治がごく一部の人のものになっているように思います。(普通の住民の多くは)政治に関心がなく、選挙にもなかなか行きません。市川は特にそうで、投票率がとにかく低いのです。

──そうですね。市川市の場合、市議選の投票率はだいたい3割台で、投票する市民は3人に1人にすぎません。市長選はもっと悲惨で、2割台の投票率が続いていました。市政に関心を持つ市民はほんの一部で、ほとんどの人が“市川都民”です。そんな市川市で昨年11月、市長選が行われました。
 本来、市長選ほど市民にとって身近なものはないはずで、投票に行くことが一番分かりやすい政治参加だと思います。(市長選が迫るにつれ)何かできないかといった思いが募りました。どの候補者が市長選に勝てばよいかではなく、1人でも多くの市民が関心を持って投票に行くようになるにはどうしたらよいかという問題です。そこで市長選の立候補者による公開討論会を開けないものかと考えました。
 そんなときに、ある大学生(須藤ややさん)と共通の友人を通してSNS上でつながるようになりました。数日後、彼女と直接会ったところ、すっかり意気投合してすぐに一緒にやろうということになりました。去年の10月半ばです。

──その大学生とたった2人で「若者とママの投票率向上委員会」を結成したのですか。
 そうです。2人が共同代表となりました。当初は公開討論会を開きたいと考えていたのですが、すでに地元の青年会議所(JC)主催による開催が決まっていました。そこでSNS(フェイスブック)を使っていろいろな情報を発信することにしました。10月29日にフェイスブックページを作成し、翌日から投稿を開始しました。

──11月26日投開票の市川市長選は、有力候補5人が名乗りを上げる大混戦となりました。
 選挙公報などを読んでも候補者の違いは判断できるものではありません。チラシではそれぞれの候補の人柄や力を入れている政策など比べられないし、普通の市民には分かりません。同じようなことが書かれていますしね。もっと(それぞれの候補者が)身近に感じられる、人柄や政策が分かるような情報を示したいと強く思いました。そこで、5人の候補者に直接、会ってインタビューすることを思いつきました。

──5人の候補者に特別な伝手(つて)のようなものはあったのですか。
 いいえ、特にありません。委員会も立ち上げたばかりで、知名度はゼロでした。それで選挙事務所や出陣式などに出向いて、インタビューをお願いしました。そうしたら意外なほど簡単にアポイントがとれました。市長選が5人も立候補する乱戦となったので、各陣営ともきちんと対応してくれたようです。
 11月7日に候補者インタビューを開始し、11月15日に5人目を終了しました。せっかくの機会なので、知り合いに「一緒に行きませんか」と声をかけました。それで5人の候補者インタビューに合計で13人が参加しました。このうち4人がベビーカーに乗せられた幼児ですが……。初めて選挙事務所の中に入ったという人もいました。

──候補者全員にお会いしてみてどうでしたか。
 直接お会いしてみて、それぞれの違いがよく分かりました。5人に同じ質問をぶつけたのですが、返ってきた内容が違うだけでなく、お話を聞いていて物事の優先順位や認識の違いなども感じられました。ご本人に直接会って話を聞くことの大事さを痛感しました。こちらが全員女性だったこともあってか、皆さん、ざっくばらんにお話ししてくれまして、それぞれの候補者の素のようなものが出たように思います。

──あえて5人に同じ質問をしたのですね。
 そうです。質問事項は全部で14(若者から3問、子育て中のママから11問)にしました。候補者からいただいた回答をどうやって分かりやすく、公平に(市民に)発信するかに力を入れました。忙しいお母さんが何か用事をしながら、スマートフォンでおっくうがらずに読めるように文章を練りました。5人の設問ごとの回答を50字以内にまとめ、漫画の吹き出しのようにして発信しました。チラシをつくって街頭で配布もしましたが、情報発信の中心はフェイスブックです。

──なるほど、5人の設問ごとの回答がSNS上で一覧できるので、比較しやすいですね。昨年11月の市長選の投票率は30.76%となり、前回(2013年)の21.71%より9.05ポイントもアップしました。有力候補5人による大激戦となったことがその要因と考えられますが、「若者とママの投票率向上委員会 in 市川」の活動も大きかったと思います。ところが、市長選は前代未聞の結果となりました。有力5候補に票が分散し、法定得票数(有効投票総数の4分の1)を上回る候補者が1人もおらず、当選者なし。約5か月後の2018年4月22日に改めて市長選が実施されることになりました。
 再選挙の投票率は下がる傾向にあると聞きましたので、危機感を持ちました。そこで再選挙でも候補者インタビューをして情報発信することにしました。5人の候補に改めて取材を申し込み、直接、会いに行きました。質問事項は別なものに変え、7項目です。再選挙への率直な気持ちや選挙期間中に印象に残った市民の言葉、最近感動したことなどを尋ねました。2回目なので、前回よりも各候補の人となりがよく分かりました。
 5人全員に会えたのですが、その後、2人が立候補をとりやめたため、三つどもえの選挙となりました。

──懸念された再選挙の投票率は33.97%となり、前回(2017年11月)を3.21ポイント上回りました。この結果をどう受け止めましたか。
 なぜ、投票率が上がったのか、その理由を探りたいと思いまして、再選挙後に駅前でアンケート調査をしました。前回の市長選で投票に行かなかったのに再選挙では投票に行ったという人たちに、その理由を尋ねてみたのです。そうしたら、「投票に行かなかったら、(市長が)決まらないと思ったから」という答えが一番多かったのです。つまり、自分が投票に行かなくても当選者は決まるから、選挙に行かなくてもよいという意識の人が多いようです。逆にいえば、(自分たちが)投票に行かなければ、(当選者は)決まらないとなれば、選挙も変わるのではないかと思います。
 政治は本来、生活に密着しているもので、身近なもののはずです。誰かを応援するというよりも、選挙に行こう、政治って面白いと感じられるようにしたいと考えています。

──なるほど。来年4月に市川市議選が予定されています。議員選挙も全国屈指の低投票率が続いていますが……。
 市議選の候補者全員に直接、会って、情報を発信したいのですが、候補者の数が多いのでちょっと無理かなと思います。それで別の方法を考えています。例えば、政治や選挙に関心を持っていない市民たちと議員全員によるパーティのようなものができないかと思っています。

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