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2018.09.25 若者参画

第9回 投票率向上に立ち上がった若者と子育て世代〜市川市と松戸市〜

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政治を敬遠・忌避する住民活動からの脱皮

 日本の自治体の中で屈指の低投票率を続ける市川市だが、地域内の住民活動が極めて低調というわけではない。市内にはまちづくりに関わる様々な住民団体が生まれており、活発な活動を展開している。そうしたまちづくりの担い手を育て、送り出す役割を果たしているのが、「いちかわTMO(タウン・マネジメント・オフィサー)講座」。市川市のNPO法人「いちかわライフネットワーククラブ」(青山真士・理事長)が市との共催で2008年度から始めた、まちづくりのリーダーを養成する講座である。半年間にわたって「知と技法」、「場づくり・関係づくり」、「コミュニティービジネス」についての14講座を開いており、これまでに150人が修了してまちづくりの活動を実践している。
 「市川には力のある住民がたくさんいるのに、その力が生かされていないように思います。住民の地方行政への関心が薄いことが大きな要因だと考えます。政治は自分とは関わりのないもの、ないしは自分たちの活動(福祉や教育、環境問題など)をより広げるのに政治が力になるとの思いが薄いようです」
 こう指摘するのは、TMO講座を共催する「いちかわライフネットワーククラブ」の青山理事長だ。TMO講座の修了生の有志は「TMOカフェ」という勉強会を続けている。その勉強会で今年7月、初めて「TMOと政治について」の議論がなされたという。地方議会の当たり前を考えるもので、青山理事長が地方議会の現状と課題などについて報告し、その後、議論を重ねたのである。

挙不毛の地に出現した“若者とママの投票率向上委員会”

 昨年11月、市川市で市長選が実施された。その告示直前に、低投票率に危機感を抱いていた住民が立ち上がり、前例のない活動を開始した。投票率アップにつなげたいと子育て中の女性と大学生(当時)の2人が「若者とママの投票率向上委員会 in 市川」を結成し、手探り・手づくりで有権者向けの情報発信を始めたのである。ごく普通の女性2人が50万人ほどの市川市民に向け、声を上げたのだった。2人のうちの1人、子育て中の石川紗樹さんは「誰が勝てばよいかという問題ではなくて、1人でも多くの方に市長選に関心を持っていただきたい、市長選がもっと身近なものになればと思って活動を始めました」と、会の結成の真意を語った(もう1人の共同代表は当時まだ大学生だった須藤ややさん。詳細については石川さんへのインタビューを参照)。
 市川市長選は有力候補が5人も名乗りを上げる大混戦となった。いずれも新人だ。石川さんと須藤さんはフェイスブックを開設し、独自取材による候補者情報の提供に努めた。ベビーカーを押しながら、各選挙事務所を訪ね、候補者本人に直接面会。全候補に同じ質問を投げかけ、回答をコンパクトに読みやすくまとめてフェイスブックに掲載した。そのほかに選挙にまつわる情報も提供し、フェイスブックを毎日更新。アクセス数は当初、日に200人ぐらいだった。時間に追われる子育て中のママが無理なく読めるように工夫を凝らし、チラシも作成した。さらには駅前やショッピングセンター前などで、道行く人たちにシールアンケートを行った。こうした石川さんと須藤さんらの取組みは、次第に市川市民の知るところとなり、2人は活動中に「フェイスブックを見ています」との声を頻繁にかけられるようになったという。

道行く市民にシールアンケートを呼びかける石川さん(中央)と須藤さん(右)道行く市民にシールアンケートを呼びかける石川さん(中央)と須藤さん(右)

 11月26日に市長選が投開票された。注目の投票率は30.76%となり、1997年以来の3割台を達成した。だが、市長選は思いもつかない展開となった。有力候補者の乱立で票が分散し、最多得票者も法定得票数を下回ってしまったのである。こうして異例の再選挙となり、投開票日は約5か月後の2018年4月22日に。石川さんと須藤さんらは再度、候補者インタビューを実施し、フェイスブックでの情報発信やチラシ配布、シールアンケートを重ねたのだった。フェイスブックのアクセス数は増加し、再選挙時には日に1,000人を超えるほどになった。
 再選挙は、5人の候補のうち2人が直前になって再出馬を断念したため、3人の争いとなった。注目の投票率は昨年11月をさらに上回り、33.97%となった。初回の選挙で最も多く得票した候補が三つどもえの接戦を制し、初当選した。こうして半年間に及んだ市長選に幕が下りたのである。
 石川さんらは、市長選直後にもシールアンケートを実施していた。再選挙の投票率が上がった理由・背景を探りたいと思ったからだ。最初の市長選を棄権し、再選挙では投票に行った人にその理由を尋ねたところ、「(投票に)行かないと決まらないと思ったから」という回答が目についたという。石川さんは「(自分たちが)投票に行かなければ選挙の結果が出ないとなれば、選挙は変わるのではないかと思います。逆にいうと、自分が投票に行かなくても決まるので、行かなくてもいいと思ってしまうのではないかと思います」と、鋭い指摘をするのだった。

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