2018.09.10 選挙
政治分野における男女共同参画の推進に関する法律〜成立までの流れと論点〜
衆議院法制局法制企画調整部基本法制課長 吉田尚弘
Ⅰ はじめに
政治分野における男女共同参画の推進に関する法律(以下「この法律」という)は、平成30年4月11日に衆議院内閣委員会において、翌12日に衆議院本会議において、同年5月15日に参議院内閣委員会において、翌16日に参議院本会議において、それぞれ全会一致で議決され、成立し、5月23日に公布・施行された。
本稿では、この法律について、特に地方議会との関係にも重点を置きながら概説を試みることとしたい。なお、文中意見にわたる部分は私見である旨、あらかじめお断りしておく。
Ⅱ 制定の経緯
この法律は、超党派の議員連盟である「政治分野における女性の参画と活躍を推進する議員連盟」(以下単に「議員連盟」という)において、検討されてきたものである。議員連盟は、平成27年2月に設立され、中川正春会長(民主党(当時))、野田聖子幹事長(自民党)など与野党問わず幅広い政党に属する議員や、無所属議員の有志で構成されるものであり、外部の有識者や衆議院法制局が継続的に政策上あるいは法制上の検討材料等を提供する体制の下で、議論が進められた。
議員連盟においては、当初は諸外国においてとられているようなクォータ制の内容やその課題などについて議論し、研究を進めていたところであったが、選挙制度そのものの改正や、政党等に具体的な法的義務を課することについては、その内容や憲法上の原則との関係について丁寧な検討や政党間調整がなお必要であるということで、議員連盟全体としては、政治分野における男女共同参画の推進に当たっての基本原則その他の大枠を示す「理念法」の提出、制定を目指すこととなった。
「理念法」の内容については、議員連盟において、総会、役員会及びワーキングチームの場で、議員連盟発足後1年以上をかけて精力的に検討を行った結果、ごく一部の「残された点」を除けば、その内容について議員連盟内でおおむね共通認識が得られ、また、当該「残された点」についても、参議院議員選挙を前にした国会の会期末が近づくという厳しいスケジュールの中で、大詰めの調整が行われつつあった。しかしながら、国会閉会を2日後に控えた平成28年5月30日、議員連盟において正式な合意に至る直前に、民進・共産・生活・社民の野党4党が、「残された点」についてその当初の主張に沿った法案を独自に提出したため、与野党超党派の合意の下で法案を提出し、成立させるという、議員連盟が当初目指していた成果の実現は当面難しい状況となった。
さらに、参議院議員選挙を挟んで、平成28年12月9日には、自民・公明・維新の3党において、所要の党内手続を経て、議員連盟において最終的に調整中であった案に沿った法案を提出し、ここに、内容がほぼ同じである2つの法案が国会に提出され、併存するという状況に至った。
当時、国会で併存することとなった両案の相違点は、前述の議員連盟における調整において「残された点」に対応するものである(表参照)。その中でも、報道等で両案の違いとして主に紹介されていたのは、法律2条1項の基本原則における表現ぶりの違いであった。すなわち、自民・公明・維新3党案では、「男女の候補者の数ができる限り均等となることを目指」すとされていたのに対し、野党4党案では、「男女の候補者ができる限り同数となることを目指」すとされていたことである。当時、各法案の提出に携わった与野党の議員連盟関係議員間においては、国会で両案が併存する状況を打開し、各党合意の上で法律を制定すべきであるという大きな目標は共有されていたものの、この点に関する整理、すなわち「均等」と「同数」では意味が異なるのか、同じなのか、という点が、両案の文言の相違点を乗り越え、さらには両案が併存するに至った政治的経緯のもつれを解きほぐして、改めて超党派での法案提出に向けた合意を形成できるかどうかに関わる最大の課題であった。
表 「政治分野における男女共同参画の推進に関する法律」について
この点については、議員連盟及び各党の検討の場において、両案の違いはあくまでも表現ぶりの問題であって意味が異なるものではない、すなわち、「野党4党案における『同数』という文言は、男女の候補者の数に着目した表現であるが、自民・公明・維新案でも男女の候補者の『数が……均等』となると言っているのであるから、男女の候補者の数に着目した表現であり、これを等しくなるようにするという趣旨を表しているという点で、両案の意味が変わるものではない」との理解が共有され、平成29年3月の議員連盟総会において、この理解を改めて確認の上、両法案を撤回し、全党合意の下で、自民・公明・維新3党案と同じ文言の案を、衆議院内閣委員会提出の法律案として改めて提出し、成立を図る旨、合意されるに至った。
議員連盟で合意したとはいえ、衆議院内閣委員会における他の法案審査の状況などから、委員会提出に向けた政治的状況が直ちに整うには至らなかったところではあるが、平成30年4月11日に至って、衆議院内閣委員会の全会一致の議決により、法案提出に至ったところである。以後の経緯は、冒頭に記載したとおりである。
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