2018.09.10 コンプライアンス
第9回 政治活動の要「後援会活動」(平時編)
(2)選挙準備と事前運動の関係
後援会においては、当該推薦・支持する公職者等が選挙に当選して議員として活動してもらうことを目指していますので、選挙の前になれば、当該公職者等の選挙戦を見越して準備・対応していくことが多いと思います。
ところで選挙運動は、「特定の公職の選挙につき、特定の立候補者又は立候補予定者に当選を得させるため投票を得若しくは得させる目的をもつて、直接又は間接に必要かつ有利な周旋、勧誘その他諸般の行為をすることをいうもの」(最1小判昭和52年2月24日刑集31巻1号1頁)であり、選挙に向けた準備や対応も、形式的にはこの概念に含まれることになります。
しかし、何の準備もなく告示日にいきなり立候補手続や選挙運動を開始せよといってもできるはずがなく、当然それまでに準備段階が存在します。
そのため、立候補の準備行為や選挙運動の準備行為といったものについては、選挙運動ではないとされています。
では、後援会として具体的にどのようなことができるのでしょうか。検討してみましょう。
ア 推薦の決議
これにつき、実務上は被推薦者が白紙の状態から行う選考・推薦決議については、団体内における内部行為ないし手続行為と考えられ、いわゆる準備行為として事前運動の禁止に抵触しないものとされています。
しかし、後援会の場合は、もともと被推薦者が従前支援している公職者等と決まっており、選考・推薦決議は形式的なものにすぎません。
その場合は内部行為・手続行為というより、むしろ選挙に向けた後援会内での支援意思の確認であって、選挙運動に当たることになります。したがって、後援会の総会等で、従前支援している公職者等の推薦決議を行うことは、事前運動に該当するおそれがあります。
イ 推薦したことを告知・広報すること
後援会の会報などで推薦の事実を後援会内外に告知することはどうでしょうか。
一般の団体において、推薦決定の事実の告知を団体の構成員に対して従前より行っている通常の方法(内部連絡文書等)で行うのであれば、内部的な告知行為であって事前運動に該当しないものと考えられていますが、通常の方法によらない形での告知や構成員以外にも広報を行うような場合は内部的な行為とはいえず、選挙運動として事前運動に該当することになります。
この点、後援会の場合は従前支援している公職者等を推薦することは当然の前提となっています。そうすると、改めて推薦したことを会報等で告知・広報することは、投票呼びかけとも評価されうるもので、事前運動と判断されるおそれが強いといえます。加えて、後援会員外にも告知した場合は、後援会から有権者に向けた選挙運動としての意味合いが強いと考えられます。
ウ 選挙運動員となるための下交渉、事務所借入れ交渉、選挙用品の発注等
選挙運動を告示日(立候補手続後)から行うためには、事前に選挙運動員となってもらうための交渉、選挙事務所探しや選挙はがき・看板等の準備が不可欠です。このような事前準備行為は、選挙運動の準備行為として認められています。
しかし、準備行為の際に投票依頼などを行えば、許された準備行為の枠を超えて事前運動となります。
エ 選挙事務に関する会議、研修等
選挙運動期間中の選挙事務の役割分担を決めるための会議や、選挙違反防止のための研修会を行うこともあります。
選挙事務の役割分担を決めておくことは、選挙運動を開始するために当然必要といえますので、選挙運動の準備行為といえます。
また、選挙違反防止のための研修会も、間接的に選挙運動を行うための備えといえますから同様に解してよいと考えられますし、後援会の設立目的が「法令についての見識を深める」といったものであれば、その目的に沿って行う行事とも評価できます。
もっとも、この場合も、会議や研修において投票依頼や票のとりまとめ・勧誘を行ったり、「◯◯氏の当選に向けての対策会議・研修を行います」などとして参加を呼びかけた場合はもちろん、平時ではほとんど研修会等を行っていないにもかかわらず研修会と称して選挙直前に何回も開催し又は不特定多数に参加を呼びかけたりすれば、その実態は選挙運動として事前運動とみなされる可能性があります。
5 戸別訪問の禁止(法138条)
何人も、選挙期間中、期間外を問わず、選挙に関して、投票を得若しくは得しめ又は得しめない目的をもって戸別訪問をすることはできません。
これに対し、自身の政策や主張を説明する目的や公職者等の政治活動の内容を知ってもらうとともに活動に対する理解者を増やすためであれば、自由に認められる政治活動であり禁止されていません。
しかし、政治活動に加えて、次回選挙時の投票を求め、知人友人に投票の呼びかけをするように依頼することは、「投票を得若しくは得しめ又は得しめない目的」があるとされ、禁止される戸別訪問に該当することになります。
また、後援会員宅を訪問し、選挙の際の運動員となるよう事前に依頼をしたり、選挙時の事務の割振りを説明するなどした場合、形式的には選挙で投票を得るための活動ともいえますが、いわゆる選挙運動の準備行為として選挙運動とはなりません。ただし、準備行為を名目に手当たり次第に訪問するとか、依頼や説明に併せて投票の依頼をするような場合は、戸別訪問の禁止に抵触するおそれがあります。
なお、選挙運動期間外の戸別訪問は事前運動(法129条)にも該当することになります。