2018.07.10 コンプライアンス
第8回 お付き合いの基本「冠婚葬祭」
解説3 公職者等が行う冠婚葬祭
公職者等自身にお祝い事があったり、身内に不幸が起きて葬儀などを行うこともあるかと思います。
この場合、公選法との関係でどのように対応すべきでしょうか。
1 公職者等による寄附の禁止との関係
解説1で述べたとおり、公選法は公職者等による選挙区域内の者に対する寄附を原則として禁止しています(法199条の2第1項)が、「債務の履行としてなされるもの」(法179条2項)は寄附には当たりません。
したがって、公職者等が自身の結婚式や喪主として行う葬儀において、会場となるホテルや葬儀会社に代金を支払うことはサービスに対する対価の支払、すなわち債務の履行となるため寄附となりません。
同様に、葬儀の際の読経や法要をしていただいた僧侶に対しお布施を渡すことも、それが読経・法要の儀式に対する対価と認められる限り寄附とはなりません。
では、対価はいくらが相当かということになりますが、これは地域や宗派の相場によるもので、一定の金額が決まっているわけではありません。事前に僧侶や寺院、近隣の知り合いなどに一般的な相場を確認しておくのがよいと思います。
他方、例えば結婚披露宴の司会者に対して心付けとしていくばくかの金銭を渡すことは、司会者の報酬が別途支払われていることから対価性は認められず、来場者に対する御車代も遠方からの来席の御礼ないし実費の補償であり対価性がありませんので、厳密には寄附となります。さらに、お布施の額が多額であったりすれば、対価としての金額を超える部分については寄附となります。
〈香典返しについて〉
その地域において、いただいた香典に対して返礼をすることが社会慣習として定着し、一種の義務的な性格を持つに至ったといえる場合には、いただいた香典に対して半額程度の返礼を「香典返し」として行うのであれば、寄附には当たらないとされています。
当該地域の一般的な葬儀等において、ほぼ毎回香典返しが行われているといった事情になりますが、こうした地域の事情は近隣の方々や葬儀会社に事前に確認しておき、後日の争いのもとを絶っておきましょう。
2 通知やお礼状についての問題
冠婚葬祭を行った場合、結婚報告等の慶事のあいさつ状や会葬の礼状などを出される方も多いと思います。これらのお礼状や通知について、公選法上、気をつけるべきことがあります。
(1)あいさつ状の禁止(法147条の2)との関係
法147条の2は、答礼のための自筆によるものを除いて選挙区域内の者に対する年賀状、寒中見舞状、暑中見舞状その他これらに類するあいさつ状を原則として禁止しています(連載第4回参照)。
これは時候の挨拶を規制したもので、単なる結婚の報告や会葬の御礼といったものは該当しません。ただし、結婚など慶事の報告を暑中見舞状や年賀状で行ったり、喪中はがきや寒中見舞状で弔事の報告や会葬の御礼をするなどした場合は、もちろん上記禁止に該当します。
(2)挨拶目的の有料広告等の禁止(法152条1項)
公職者等や後援会などの後援団体が、会葬御礼のために選挙区域内の者に対して新聞広告等を出したような場合は、挨拶を目的とする有料広告を禁止する法152条1項に違反することになります。
挨拶目的の有料広告については、上記あいさつ状の禁止と異なり、「慶弔、激励、感謝その他これらに類するもののためにする挨拶」も含まれるため、対象が幅広く注意が必要です。
また、条文にあるように、新聞のみならずインターネットの有料広告も含まれます。
(3)事前運動の禁止との関係(法129条)
法129条は、選挙運動期間外における選挙運動を禁止しています(事前運動の禁止)。
冠婚葬祭の通知やお礼状を大量に選挙区域内の人に発送したり、通知やお礼状の内容に特定の選挙への立候補の意思や支援の呼びかけを記載したり、当該冠婚葬祭から時期が外れた選挙告示直前に突然送るなど、選挙での投票を得るため又は有利になるように利用した場合は、事前運動として公選法違反となる可能性があります。
(4)選挙運動における法定外の文書図画の頒布禁止との関係(法146条1項)
選挙運動期間中においては、頒布できる文書図画は制限されており(法142条)、地方議会議員及び首長選挙それぞれの種類に応じて頒布できるものが決まっています(同条1項3号~7号)。
冠婚葬祭の機会を利用してこの規制を潜脱し、慶事弔事の通知や会葬の礼状等の形で選挙区域内の有権者に頒布することは、法定外文書の頒布禁止を定めた法142条を免れる行為として公選法違反となります(法146条1項)。