2018.07.10 コンプライアンス
第8回 お付き合いの基本「冠婚葬祭」
(2)香典等について
法249条の2第3項2号は、以下の2つの場合について罰則を不適用としています。
A ①葬式に、②公職者等が自ら出席し、③その場においてする香典等の供与の場合
B ①葬式の日(葬式が2回以上行われる場合には最初に行われる葬式の日)までの間に、②公職者等が自ら弔問し、③その場においてする香典等の供与の場合
いずれの場合も、公職者等が「自ら」行うことと「その場においてする」供与が要求されています。
また、葬式は亡くなった方を弔い葬るために行われる儀式ですので、その性質を有する限り、「お別れ会」や「偲(しの)ぶ会」であったとしても、これに当たることになります。
したがって、以下の場合は原則どおり罰則が適用されます。
ア 代理人が葬式に出席し、公職者等の代わりに香典を出すこと
この場合、代理人自らが負担して香典等を出すことはできます。ただし、芳名帳などに肩書きとして「市会議員○○代理」とか「市会議員○○秘書」などと記載した場合、公職者等本人の香典と見られるおそれがあります。
イ 事前に代理人などに香典を届けさせ、公職者等本人が葬式に参列すること
この場合は、「その場においてする」の要件を満たしません。
ウ 葬式に香典等を持参せず、後日、公職者等本人が弔問して香典等を届けること
この場合、葬式で香典等を供与しておらず、また最初の葬式の日までに弔問に訪れて供与したことにもならないため、上記A、Bいずれにも当てはまりません。
〈香典等は誰に対する寄附?〉
結婚式の祝儀は新郎新婦に対するものといえますが、香典等は誰に対するものなのでしょうか。
この点、遺産分割に関する家事事件ですが、「被相続人の葬儀に関連する出費に充当することを主な目的として相手方〔筆者注:この事件で葬儀を行ったと主張している当事者〕になされた贈与とみるべき」との審判例があります(東京家裁昭和44年5月10日審判・家裁月報22巻3号89頁)。
それに従えば、香典等の供与の相手方は、葬儀を主宰した者(通常は喪主)となります。ですから、葬儀の受付で香典を渡した場合に、参列する親族の中に選挙区域内の方がいたとしても、喪主の住居や葬儀会場が選挙区域外であれば、そもそも寄附の禁止(法199条の2第1項)に触れないことになります。一方で、香典として特定の遺族に向けて供与すれば、それは当該特定の遺族に対する寄附となりますので、その遺族に対して寄附が認められるかを個別に判断する必要があります。
〈香典等の種類〉
ここでいう「香典等」は、条文上「これに類する弔意を表すために供与する金銭を含む」とされていますので、名称にかかわらず「御霊前」や「玉串料」など弔意を示すための金銭であれば含まれます。
一方で、祝儀の場合と異なり、物品は含まれないと考えられています。そのため、供花や線香・盛物といったものを香典代わりに供えることはできません。
(3)共通の注意点
祝儀・香典等に共通する注意点があります。それは、法249条の2第3項柱書の括弧書に書かれている2つの要件です。
ア 法249条の2第3項は柱書の括弧書で「通常一般の社交の程度を超えないものに限る」と定めています。したがって、祝儀・香典等の内容、価値が通常一般の社交の程度を超える場合は、たとえ上記の許される場合であっても、原則どおり罰せられることになります。
通常一般の社交の程度の内容は、その地域の慣習や世間一般の常識によって個別的に判断されるものであり、「これ」という確定した基準があるわけではありません。
一般的な他の参列者が出す程度のものを標準として、それ以下と考えておくのが無難でしょう。
イ 当該選挙に関しないものであること
「選挙に関し」とは、選挙運動期間中に限らず、選挙に際してや選挙に関することを動機として行った場合など、選挙に関係する一切のものが含まれます。
そのため、選挙が近い時期の祝儀や香典等の供与については、特に気をつける必要があります。「選挙に関し」て行ったものであるかは、その時期や態様・頻度などを踏まえて判断されることになり、最終的には訴追する側(摘発する側)が証明しなければなりませんが、選挙運動期間中や選挙が間近な時期だと疑われやすくなりますし、無罪となっても一度は問題とされたというマイナスイメージが付いてしまいます。
解説2 後援会等の後援団体からの祝儀・香典等
法199条の5は、政党やその支部のほか後援会等の後援団体がする祝儀・香典等の供与について規制をしています。公職者等からの供与を禁止するだけでは、後援会等を抜け道として使われてしまうことになるためです。
同条は、後援団体の選挙区域内の者に対する寄附を原則禁止し、①政党その他の政治団体(又はその支部)に対する供与の場合、②後援団体が推薦・支持する公職者等に供与する場合、③当該後援団体の設立目的により行う行事又は事業に関し寄附をする場合、等について例外を設けています。
このうち、③については「花輪、供花、香典、祝儀その他これらに類するものとしてされるもの……を除く」としており、公選法は設立目的のいかんを問わず祝儀や香典等を例外から除外しています。
結局、公選法は、後援会等の後援団体からの祝儀・香典等は、①又は②の場合のみ許容し、後援会会員など公職者等以外の者に対する祝儀・香典等は認めていません。
ちなみに、本条にいう「後援団体」は、①政党その他の団体又はその支部で、②公職者等の政治上の主義・施策を支持、又は特定の公職者等を推薦・支持することがその政治活動のうち主たるもの(法199条の5第1項参照)をいい、いわゆる後援会のみならず、政党・政党支部も含まれていますので、政党支部が貢献のあった党員に対して祝儀・香典等を送ることもできません。