2018.05.25 予算・決算
第3回 修正案が可決しても、原案が執行されることもある
人口30万人を超える自治体議会議員 木田弥
事例①〜予算特別委員会で可決した予算修正案
ようやく37日間に及ぶ3月議会定例会も終わった。今回は、予算特別委員会の委員として平成30年度当初予算案の審議に関わり、同委員会で、ある項目について予算修正案を提出した。内容は、市長の掲げる重点政策目的を達成するための株式会社の新設とその出資に関わる出資金の削除を求めたものである。政策目的そのものは、筆者も大いに賛成するところであったが、その出資割合に大きな問題があると感じたためだ。
問題は、市の損失補償の可能性である。提出された案では、市の出資割合が51%。経営責任を一手に引き受けざるを得ない割合である。他の出資者は、大手エンジニアリング会社、地元金融機関などである。株式会社の業務内容が、水道などの地域独占的な性質のものであれば、リスクは低く見積もることができるが、残念ながら、競争の厳しい分野への進出である。経営が不調に陥った際には、市が損失補償を求められることになる。この点も確認しようと、市以外の出資者であり、かつ資金の融通先でもある金融機関や、エンジニアリング会社に対して参考人としての議会への出席と説明を求めた。
しかし、委員会当日は出席できないとのことで、文書での回答となった。株式会社への融資を明言している金融機関からの回答文書によれば、市に対する資金融資に当たっては、債務保証は求めないが、経営権が市から別の法人に移行した場合、再検討を要するとの回答であった。議会からは損失補償という用語での質問であったが、債務保証という用語を用いての回答であった。この点も、損失補償についての疑念を払拭できない要因となった。なぜなら、法人に対する政府の財政援助の制限に関する法律(財政援助制限法)3条で、地方公共団体は、土地開発公社と地方道路公社以外は、債務保証を行ってはいけないこととされており、債務保証は求められてもできないのだ。そのために、債務保証に代わる制度として損失補償を行うことになる。
関係者への質問を通じても、会社運営が不調に陥った際の損失は、市が、つまりは市民が被ってしまうという疑念は拭えなかった。こういったリスクを回避するためにも、最低限、出資割合の引下げを求めて、議案提出者側との議論を尽くそうと試みた。しかし、出資割合を下げる意向も示されなかったため、仕方なく出資分については、全額削除する修正案を提案した。
筆者が提案した一般会計の予算修正案は、予算特別委員会では可決したものの、奮闘むなしく、本会議ではわずか1票足りず、原案可決となってしまった。予算特別委員会での否決が、政策の変更を促すことも期待したが、本会議までに執行部側からの修正提案はなされなかった。
再議請求を避けるためにも、修正案可決は3分の2以上の賛成が理想?
もっとも、あと1票あったとしても、可否同数である。そうなれば、地方自治法(以下「法」という)116条にのっとり、議長が決することとなる。議長の投票は、可否どちらに投票するかについては自由であり、憲法上は何ら制限がない。しかし、会議原則では「現状維持の原則」に従うこととされている。予算原案を現状維持とするなら、否決という判断となる。これが、一般的な解釈であろう。しかし、修正した提案は新規政策であるので、現状維持なら可決という判断の余地も残っている。筆者の会派から議長を輩出していたこともあり、もし、議長が修正案可決と判断し、しかも出席議員の3分の2以上の得票を得ていない状態で修正案に賛成した場合、議長不信任案の提案など、その後の議会運営に混乱を招いた可能性も高い。修正を実現するためには、少なくともあと2票、そしてできれば有効投票の3分の2を超える票を獲得することが必要だった。
なぜ3分の2以上必要なのか。今回は、修正案は可決しなかったが、もし可決した場合、市長提出議案であれば、法176条及び177条で、市長には再議権が認められている。再議とは、修正や否決された首長提出議案について、改めて議決を求める制度である。再議では、法176条に該当する場合は、出席議員の3分の2以上の同意が必要であり、それがないと議決は確定しない。いったんは修正可決したとしても、再議請求された場合、修正案の再可決は難しかった。もし、最初から出席議員の3分の2以上で修正案を可決すれば、市長が再議権を行使する可能性はより低くなる。そのため、できれば出席議員の3分の2以上の賛成が望ましいということだ。