2018.05.25 住民参加
第5回 地域の担い手を育み、支え、増やす若者議会〜愛知県新城市〜
危機的状況を打破するには若者の力が不可欠
「市に問題があると思っていまして、(若者議会の)委員になって提言すれば、よくなっていくかなと考えました。でも、実際になってみて市も努力していることがよく分かりました。そして、どうして市が若者の力を求めているかも分かってきました。普通は(自分たちのような)未熟な人たちを(政策立案に)関わらせないものです。何かこれまでにない手を打たねばならないと思うほど、危機的な状況になっているんだなと感じました」
こう語るのは、新城市内に住む前田康太さん。31歳の前田さんは一昨年(第2期)の若者議会で副議長を務め、昨年(第3期)はメンター市民として若者議会を支えた。今年は若者議会の提案で始められた事業(ふるさと納税リニューアル事業など)に住民として携わっている。
前田さんは新城市に隣接する豊川市出身で、神奈川県横須賀市である仕事に従事していたが、新城市内の工務店に転職。親の在所でもある新城市の住民となった。子どもも生まれ、充実した毎日を送っていたが、ある時期から不安を抱くようになった。新城市を消滅可能性都市と指摘した例の民間研究機関のレポートを見たからだ。地域の将来に強い危機感を抱いた前田さんは「市民として新城のために何かできないだろうか」と、強く思うようになった。ちょうどそんなときに若者議会のメンバー募集を知り、応募を決意した。新城市民になって6年目で、29歳になっていた。前田さんは若者議会での体験をこんなふうに語ってくれた。
第2期の若者議会委員の1人となった前田さんだが、市外委員はもちろんのこと、他の市内委員とも全く面識がなかった。25人の委員のうち高校生や大学生が6割を占め、前田さんのような社会人が4割ほどだった。大人になってから高校生と接する機会のなかった前田さんは、初めて会う高校生たちが自分たち大人を避けるのではないかと思ったが、それは杞憂(きゆう)に終わった。高校生委員も(新城のまちづくりに)純粋に真っすぐに取り組んでいた。もっとも、知識や経験の差があるため、議論になると高校生が置いていかれる感じになった。そのため社会人メンバーが彼らのことを忖度(そんたく)する傾向もあったようだ。
それでも地域をよくしたいという純粋な思いを共有しているため、若者議会のメンバーは常に前向き、ポジティブだった。一般社会や議会のように「そんなことができるはずはない」と、提案をはねつけてしまうことはなかった。前田さんは「ものごとを否定から入らないのが、若者議会の特長だ」と指摘した。そして、「地域のために活動することで自分たちも成長することができるし、地域をよくするためのアイデアは若者の方が持っているのでは」などと指摘した。また、前田さんは若者議会に参加して驚かされたことがあると打ち明けてくれた。
「市の担当職員が柔軟な人ばかりでビックリしました。皆さん、情熱を持って取り組んでいるなと思いました。(公務員は)言われたことをやるだけというイメージを持っていましたので、すごく新鮮でした。市の職員も(若者議会に関わることで)自分が市の構成員であることを改めて感じることになるのではないでしょうか」
若者議会の効用は様々な分野に
実は、冒頭で紹介した若者議会の準備会を取材していて同じようなことを感じた。準備会には市の担当職員とメンター職員が多数参加し、若者議会委員と同様に1人ひとり自己紹介をしていた。若手職員がほとんどだったが、皆、明るく親しみやすかった。公務員らしからぬはじけ方をしていて、それがとても新鮮だった。住民と職員の間に大きな壁のようなものがないと感じたのだった。それを裏付けるようなエピソードを前田さんが話してくれた。「これまで市の活動に全く関心のなかった高校生が、(若者議会に参加したことで)気軽に市役所に行くようになったそうです。職員とも顔なじみになって、中には毎日のように市役所に顔を出す高校生もいるそうです」。
若者議会は若者の地域への愛着心や貢献意欲を刺激し、活性化させるものとなっている。若者議会での経験がきっかけとなり、市議会議員になったOBさえいる。初代の若者議会議長を務めた竹下修平さんである(インタビュー記事を参照)。
若者議会は若者のみならず、それに関わる職員にも好影響を及ぼしている。それを意識してのことであろう。市は若者議会をサポートする10人ほどのメンター職員を毎年、入れ替えている。多くの職員に経験させることを狙ってであろう。新城市企画部まちづくり推進課若者政策係の白頭卓也さんは「(若者議会に関わることは)職員にとってもいろいろな利点があります」と、明言した。白頭さんは若者議会をスタート時から担当する職員で、現在31歳。準備会での自己紹介では「ビールとエンガワが大好物」と話していた。
白頭さんは、職員が若者議会に関わることの効用を4点挙げた。1つは、若者の感覚や発想を知り、自らも磨くことができること。2つ目は、若者の声を引き出し、政策にまとめ上げる力を身につけることにつながること。3つ目は、いろいろな場で発表する機会が多いので、自らの表現力や発信力も高められること。4つ目が、人的ネットワークが大きく広がることだ。
新城市の若者議会は5月から4期目がスタートした。今期の目標として「市民ニーズをしっかりと把握して“市民に必要とされる若者議会”を目指す」ことが掲げられた。生みの親である穂積亮次市長は「新城市に本気になって若者議会をやりたいという若者がいたことで実現できた」と、誇らしげに語るのだった。危急存亡の状況から地域を再生させつつある新城市を見ると、地域の未来を切り開くのは住民の力だということがよく分かる。とりわけ、可能性を秘めた若者たちの存在が大きい。地域を活性化させるには、まずは自治の担い手を再生させることではないだろうか。