2018.05.25 住民参加
第5回 地域の担い手を育み、支え、増やす若者議会〜愛知県新城市〜
日本初の条例に基づく新城市の若者議会
新城市の若者議会は、日本で初めて条例によって定められたものだ。若者の力を生かすまちづくり政策の一環として、2015年に制度化された。若者議会に予算(年間1,000万円)をつけ、その予算の使い道を若者自らが政策として練り上げ、実行につなげていくというものだ。若者議会の仕組みはこうだ。
若者議会の委員は20人以内。おおむね16歳からおおむね29歳までの新城市に住んでいる人か市内の学校や職場に通っている人を対象に、市が公募して集めている。このほかに5人の市外委員(2016年度から)を公募し、若者議会委員をサポートするメンター市民(39歳まで)も公募している。こちらは若者議会のOB・OGが手を挙げるケースが多い。さらに市の若手職員がメンター職員として配置され、企画部まちづくり推進課が全体の事務を担う。若者議会委員らには日当3,000円と交通費が支給される。任期はいずれも1年。ちなみに第4期の若者議会委員(市外委員も含む)25人の内訳は、男性15人に女性10人。高校生が13人、大学生が5人、社会人が7人だ。15歳から29歳までバランスよくそろっている。
若者議会は、市長から若者総合政策の策定及び実施に関する諮問があって、正式にスタートする。例年、5月上旬になる。チーム(テーマ)ごとに会合(月に2回ほど)を重ね、政策を立案していく。合宿して議論する場合もある。途中、市幹部らに政策を発表して質問を受け、再検討する。約7か月間にわたって練り上げた政策を11月上旬に市長に答申し、それらを市が検討した上で予算案として議会に上程。年明けの3月議会で予算案が承認されれば、次年度から市の事業として実施されることになる。これまでに実行された事業は、1期が6つ、2期が7つ、3期が10の計23事業(継続中も含む)に上る。例えば、図書館のリノベーション事業や地域防災事業、高齢者とおしゃべりする事業などである。
5月2日夜に市議会本会議場で第4期若者議会が開会され、25人の委員に辞令が交付された。若者議会の議長に16歳の高校生、瀬野航太さんが選ばれ、18歳の短大生、伊藤早希さんが副議長になった。恒例の所信表明となり、25人の委員が1人ずつ演壇に立った。こうして新城市の若者議会が今年もスタートした。夏休み前までは新城を知るインプット期間とされ、新人委員たちは様々な人に会って話を聞いたり、市の取組みなどについて学ぶのである。
新城市に若者議会が誕生するまでの長い道のり
では、どのような経緯で新城市に若者議会が生まれたのだろうか。誕生のきっかけと制度設計までの流れなどについては、キーマンである2人のインタビュー記事をお読みいただきたい。ここではさらに時を遡り、若者議会が生まれた背景や地域事情などに迫りたい。
新城市は2005年10月に新設合併し、生まれ変わっている。新城市と鳳来町、それに作手村の3市町村が対等合併し、新しい新城市になった。だが、御多分に漏れず、新市の名称や庁舎などの問題でひと悶着(もんちゃく)した上での合併だった。初代市長を決める選挙は激戦となった。旧新城市から元助役と元市議が立候補し、ここに鳳来町の町長が割って入り、三つどもえの戦いに。住民の関心は高く、8割を超す投票率となった。結果は鳳来町の町長が1万6,904票を獲得し、旧新城市の元助役に4,066票差をつけて当選した。現在も市長を務める穂積亮次氏である。
穂積氏は市長選のマニフェストに、「自治基本条例」を任期中に制定することを掲げた。しかし、1期目での条例制定はかなわず、2度目の市長選となった。このときも三つどもえの戦いとなったが、穂積氏は現職の強みを発揮して再選を果たした。翌2010年から自治基本条例づくりの取組みが本格化した。市長が示した方針は2つ。先進事例をひな型として利用しないこと。そして、住民とゼロベースで議論を重ねることだった。市は2010年4月に「新城市自治基本条例を考える市民会議」を開催し、市民との議論をスタートさせた。市民会議はその後、名称を検討会議に変え、「おでかけ隊」と命名された職員約40人と市民約40人が市内9地区に出向き、条例のたたき台について住民の意見を聴いて回った。
2011年3月にたたき台がまとまり、無作為抽出で選ばれた住民らによるプレ市民総会が開催された。
こうした経緯を経て新城市自治基本条例は2012年12月に可決成立し、2013年4月から施行となった。
まちづくりのルールと記された新城市の自治基本条例の前文には、次のような一文がある。
「魅力ある私たちのまちが、元気に住み続けられ、世代のリレーができるまちとなるためには、市民一人ひとりを大切にし、老若男女みんなが当事者となってまちづくりをすすめなくてはなりません。」
新城市自治基本条例のポイントは4つある。1つは、市長又は議会に市民まちづくり集会を年に1回以上開催することを義務付けている点。また、市民まちづくり集会の参加者を無作為抽出方式で選ぶというのも特徴となっている。2つ目が、常設型の住民投票制度を設けている点だ。18歳以上の日本国籍を有する住民総数の3分の1以上の署名が集められた場合、市長は住民投票を実施するものと規定されている。3つ目が、地域自治区である。市内を10に区分けし、予算と権限を付与した地域自治区を設置した。4つ目が、自治基本条例の実効性を確保するために市民自治会議を設けた点である。
こうした住民主役のまちづくりの取組みの積み重ねがあって初めて、若者議会が誕生したといえる。地域を起点とした民主主義の具現化を目指す、新城市の先進的な動きといえる。しかし、新城市はその頃、大きな課題を抱え込んでもいた。