2018.05.10 コンプライアンス
第7回 選挙事務所、どうしてますか?
解説
解説1 選挙事務所の定義
解説2 選挙事務所についての公選法の規制
1 選挙事務所の設置に関する公選法の規制
2 選挙事務所においてできること、できないこと
解説3 休憩所等の設置の禁止
解説1 選挙事務所の定義
選挙運動において欠かせないのが選挙事務所です。選挙運動の作戦を立てて実行に移し、また選挙用品の購入や運動員の管理などの事務を行うため、司令塔的な場所になります。
この「選挙事務所」とは何かについて、戦前の大審院(現在の最高裁判所に相当)の昭和7年12月24日判決(大刑集11巻1940頁)が「所謂選挙事務所トハ選挙運動ニ関スル事務ヲ取扱フ一切ノ場所的設備ノ謂ナリト解スヘキモノトス」と述べています。
また、同判決は特定の候補者のために選挙事務を取り扱う場所として設置したとも認定しています。
なお、この判決は衆議院議員選挙法の選挙事務所について述べた判例ではありますが、同法はその後制定された公選法の前身でもあり、現在の公選法における選挙事務所の定義も同義と解してよいでしょう。
そうすると、選挙事務所といえるためには、①特定候補者の選挙運動に関する事務を取り扱うこと、②これを行う場所的設備であることを要し、反対にこれらの要件を満たせば、名前が違っても選挙事務所と判断されることになります。
(1)特定候補者の選挙運動に関する事務を取り扱うこと
ここでいう選挙運動に関する事務は、典型的な事務である候補者の選挙運動の計画立案や選挙収支の出納業務にとどまりません。
選挙ポスターの掲示や個人演説会のための準備、電話作戦の割り振りを行うこと、選挙はがきをとりまとめて整理すること、さらには選挙運動員や労務者の管理を行うこともこれに含まれます。
選挙の司令塔的な場所であるとの性質から、「事務を取り扱う」といえるためには一定の継続的要素が必要です。そのため、個人演説の直前に会場別室で登壇者と段取りを打ち合わせることや、普段の議員事務所に届いた選挙関係の郵便物と関係のない郵便物をその場で仕分けして選挙事務所に持っていくことなどは継続的でないため、これに当たらないと考えられます。
また、統括責任者や出納責任者、選対本部長などが必ずしも常駐している必要はなく、その場所の実態として選挙事務を総合的に取り扱っていれば選挙事務所と扱われます。
これに対し、単なる選挙ポスターや備品等の倉庫や選挙カーの駐車場は、そもそも「事務を取り扱う」場所には当たらず、選挙事務所とはいえません。
(2)(1)を行う場所的設備であること
選挙運動に関する事務を取り扱う場所となる他と区別された一定の場所が必要です。
そのため、日々移動する自動車は一定の場所にあるとはいえませんので、この要件を満たしません(逆に、その自動車が移動しない放置車両などの場合は、一定の場所といえます)。
また、「選挙区域内全体」を選挙事務所とすることも、他と区別された一定の場所とはいえませんので、できません。
もっとも、その場所において選挙運動に関する事務を継続的に行っていれば、事務机や複写機、電話などをはじめとする備品が置かれていることは必要ではなく、がらんどうの部屋で選挙対策の会議を反復して開いたり、倉庫のような場所で選挙はがきやポスターの頒布を行っていれば選挙事務所となります。
さらには、選挙管理委員会に届け出ていなくても「選挙事務所」といった表示を対外的に示した事務所であれば、第三者から見れば選挙事務所としての外形を作出しているため、何らの事務を行っていない場合でも選挙事務所として扱われます。