2018.04.25 住民参加
第4回 議会会派が無作為抽出型の住民協議会を実施~神奈川県伊勢原市~
【インタビュー】
山田昌紀・創政会代表に聞く
「住民協議会」を主催する伊勢原市議会の会派「創政会」の山田昌紀代表に話を伺った。現在2期目の山田市議は1970年6月生まれの47歳。市議を5期務めた母親が引退した4年後に初出馬し、議員となった。
──議会の会派が無作為抽出型の「住民協議会」を開くのは、とても珍しいことです。どんな経緯から取り組むことになったのでしょうか。
私は議員として一生懸命活動する母親の後ろ姿を見てきました。地域のために粉骨砕身し、まるで地域の御用聞きのように動き回っていました。それで母の議員としての評判も大変良かったのですが、私はどうなのかなと思っていました。
──それはどういうことですか。
母親の仕事ぶりは、地元の自治会長さんと同じではないかと思ったのです。議員の仕事は、5年後、10年後を見据えたまちづくりのための知恵を出す、政策立案することなどではないかと思うのです。自分の支持者や地元のためだけに動くのでは、議員の役割を果たすことにはならないと思います。
──なるほど。山田さんご自身が伊勢原市議になったのは2011年4月からですね。
東日本大震災直後の選挙で、私たち新人にとってはとても厳しいものでした。その年の10月に市が今後の財政見通しを公表し、財源不足が5年後に10億円、さらに20億円に膨らむといった試算を明らかにしました。それで(市の将来に)強い危機感を持つようになり、議会として議員としてもっとものを言うべきだ、議会を改革しなければいけないとなったのです。自分の支持者のために動くだけの議員ではだめだと。
──それで会派としてまず事業仕分けに取り組んだのですか。
市議会として事業仕分けを実施したかったので、各会派に声をかけましたが、賛同されませんでした。「パフォーマンスだ」とか「事業仕分けにカネをかけるのは、税金を二重に使うことになる」などと、どの会派も冷ややかでした。それで「創政会」として事業仕分けをやることになりました。
──それでも議会会派主導による初の事業仕分けとなりました。
市民判定人は選挙人名簿から無作為抽出して、参加を呼びかけました。会派所属の議員1人ひとりが選挙人名簿から自分の地元外の人たちを無作為抽出し、宛名書きをしました。議員1人が100人分を担当し、郵送総数は1,000通となります。送料や会場費などの経費は政務活動費を充てました。
4年間で10以上の事業を仕分けし、結果を市議会での一般質問に活用しました。(事業の効率化などの)成果をしっかり上げたと思いますが、事業仕分けはどうしても執行部への攻撃色が強くなってしまいます。そのためパフォーマンスのようにも見えてしまいがちです。そうではなく、市民判定人と議論して新しい意見や提言などを導き出す方がよいのではないか、という捉え方が会派内に広がっていきました。もっと前向きで、夢のあることをやりたいとなったのです。そんなことを伊藤さん(構想日本の伊藤伸・総括ディレクター)に話したところ、無作為抽出型の住民協議会のことを知らされたのです。
──無作為抽出型の住民協議会を初めて知ったとき、どう思いましたか。
昔、JC(日本青年会議所)のメンバーとして関わった「市民討論会」のことを思い出しました。2010年に伊勢原市のまちづくりについて話し合う討論会を開きました。そのときも無作為抽出で参加者を募ったのです。いろいろな人の意見を聞きたいと思っての企画で、行政側が無作為抽出の作業を担当しました。
──それでやってみようとなったのですね。
そうです。「今後の公共施設のあり方」をテーマとし、公共施設の再配置と受益者負担などについて市民と議員などが議論することにしました。事業仕分けのときと同様に、会派の議員が手分けして無作為抽出の市民1,000人に通知を郵送したところ、48人から参加希望の返事が来ました。
──議会の他の会派に声はかけたのですか。
事業仕分けのときに拒否されましたので、他の会派に声をかけることはしませんでした。
──実際に無作為抽出型の住民協議会をやってみてどうでしたか。
住民協議会の意義はプロセスにあると思います。いろいろな市民の意見をじっくり聞くことです。私たち議員はどうしても自分の支持者の意見や声を(議員活動等に)反映しがちです。それだけではなく、自分と全く接点のない住民の意見や声もきちんと反映させなければいけません。住民協議会は無作為抽出なので、自分が一度も会ったことのない住民も参加します。いろいろな市民の意見が聞けます。それで「すごい人がいるなー」と思うことがしばしばです。そんな話し合いのプロセスが大事で、結論(を出すこと)ではないと思っています。ところが、前回の住民協議会では一定の答えまで導き出されたのです。
──それはどういうことですか。
前回の住民協議会で公共施設の使用料について、活発な議論が展開されました。その結果、参加者の9割が受益者負担を肯定する見解を示したのです。これには傍聴していた市の執行部側もびっくりしていました。私たちは住民協議会で議論された市民の意見などを、議会での一般質問や行政への提案に活用しますが、執行部側も市民の意見を広聴する場として着目しているようです。
──他の会派の議員は「創政会」が実施している住民協議会をどう見ていると思いますか。
評価している議員もいるようですが、他会派からこれといった反応はありません。ただ、伊勢原市議会は改革に前向きです。議会内にまちづくり検討会議を設置していまして、各委員会の強化を目指しています。(議会として)市民への発信や広聴にも力を入れています。