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2018.03.26 住民参加

第3回 外国籍住民が自治を担う時代に ~愛知県西尾市~

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多国籍住民が防災ボランティア団体を結成

 事例報告の中で着目したのは、彼ら2人が参加している「外国人防災ボランティアグループ」についてだ。2014年に発足した外国人住民による防災ボランティア団体で、ペルー人の松本セーサルさんが代表を務める。緑町団地で初めての外国人自治会長となった人物である。団地などに住む外国人が防災への意識を高めたり、災害時に備えての訓練などを行うために結成された。防災の専門家を講師に呼び、年に6回勉強会を重ねている。若い彼らが地域の自主防災の一翼を担おうというもので、メンバーは現在、数人といったところだ。
 代表の松本セーサルさんは仕事のためセミナーには姿をみせなかったが、代わりに2人の会員が通訳を交えて会の活動内容などについて話をした。会場には地元の自主防災組織の役員(日本人)もいて、その人は「防災は大きな目的だが、日々の(外国人住民との)交流があってこそだと思う。それがないといざというときに動けないだろう。日本人の方が日々の生活の中で(外国人住民に)もっと積極的に声がけをしなければいけないと思う。声がけや挨拶がきっかけでいろいろできるようになるのではないかと思う」と、率直な意見を述べたのだった。
 日本社会の人口減少と高齢化は今後、急速に進んでいく。この大きな流れにストップをかけることは、もはや不可能といってよい。そうした時代認識を持った上で、とるべき道を考えねばならない。目指すべきものは多文化共生社会なのではないか。「外国人にも地域の担い手になってもらわないと、地域そのものが崩壊してしまう」(川部さん)との指摘を真摯に受け止めねばならない時代になっていると考えるが、いかがだろうか。

【インタビュー1】

川部國弘さんに聞く

 緑町団地の自治会長を11年間にわたって務め、2001年に「外国人との共生を考える会」を発足させた川部國弘さんにこれまでの経緯を伺った。

川部國弘さん川部國弘さん

──川部さんが団地に入居したのはいつですか。
 昭和63年(1988年)です。入居当初は団地の自治会に関心を持っていませんでした。というより仕事と子育てが大変で、自治会活動をする余裕などなかったのです。ただ団地ではその頃から住民同士のトラブルが頻発していました。

──すでに外国人入居者の問題が起きていたのですか。
 いいえ違います。トラブルの原因は駐車場です。85世帯の団地で63台分の駐車スペースしかなく、いつももめていました。抽選で利用者を決めてはいたのですが、違法駐車などごたごたが絶えませんでした。利用のルールもしっかり定められておらず、ひどかったのです。あるとき、自治会の会長と私が駐車場のことで言い争いのようになってしまい、売り言葉に買い言葉ではないですが、「それじゃ、私が会長をやる」となったのです。平成4年(1992年)でした。

──トラブルが原因で団地の自治会長ですか。
 そうです。ですから新しく会長になった私の最大の課題は、駐車場をどうやって確保するかでした。自治会の中に駐車場委員会をつくり、大家さんである愛知県にも相談に行きました。私は団地のすぐ近くにある田んぼに目をつけました。その田んぼを埋めて駐車場にしようと考え、所有者に土地を貸してもらえないかとお願いしました。団地の住人には駐車場ができれば、車庫証明が取得できるようになるが、その半面、駐車場の使用料を負担しなければならないと説明して回りました。こうして団地の長年の懸案事項を解決しました。

──その頃はまだ外国籍の住人はいなかったのですか。
 会長になるまで外国人居住者のことは全く意識にありませんでした。関心を持っていなかったのです。ですが、私が会長になった平成4年当時、すでに団地の中にブラジル人の世帯が9つに上っていました。駐車場問題をきっかけに、私は団地内のいろいろなルールの明確化を図りました。そうしたところブラジル人世帯の中に入居不備の世帯が混ざっていることが分かり、3世帯に団地から退去してもらいました。

──入居不備とは何ですか。
 入居契約者と実際の入居者が別人だったのです。ブラジル人の中にはごみ出しのルールを守らない人もいました。これには困りました。何らかの手を打たなければ、無秩序になってしまいます。彼らに(団地での)集団生活のルールを身につけてもらわないと、お互いが住みにくくなってしまうと思いました。それで、団地の中にいた日本語が堪能な日系2世の方に自治会の協力者になってもらいました。通訳翻訳委員としてブラジル人たちにごみ出しなどの団地のルールを身につけてもらえるよう仲介してもらいました。彼らも言葉の問題や生活習慣や文化の違いもあって、日本のルールが理解できずにいたのです。彼らとコミュニケーションをとるようになって、ごみ出しの問題などはなくなりました。
 その後、外国人が年々、増加するようになりまして、今は入居者の6割が外国人です。残り4割の日本人の多くが高齢者です。自治会活動はもう日本人だけではやれません。外国籍の人と仲良く手をとり合わないと、団地は成り立ちません。

──緑町団地では外国籍の人が自治会役員を務めていると聞きました。
 外国人が初めて自治会の役員になったのは、平成6年(1994年)です。外国籍の自治会長も平成19年(2007年)に生まれました。ペルー人で、彼は3年間続けました。今の会長は日本人ですが、副会長は日系ブラジル人です。うちの自治会では会長以外の役職は皆、日本人と外国籍の人がペアでやることになっています。互いを理解しながらやっていこうというのが、基本的な方針です。それで23人いる役員の半分は外国籍の人です。

──外国籍の人が自治会の役員になることに異論は出ませんでしたか。
 日本人の住民の中から「外国人が(自治会の)お金を扱う役職につくのはどうか」といった意見も出ましたが、私は「そうした偏見や差別はおかしい。時代の大きな流れがあり、外国籍の人と仲良く手をとり合わないと団地は成り立たない」と主張し、納得してもらいました。私は日本人の方が歩み寄らないことが、ネックになっているように感じます。外国籍の人たちは(自治会や地域の活動、子ども会などを)やりたいという意欲を持っていますが、日本人の側に「言葉がよく分からない人たちが入ってきて何をするんだ」といった否定的な声が多い。外国籍住民も地域の構成員としてきちんと受け入れないといけないと思います。そうしないと日本人が困るはめになると思います。

──それはどういうことでしょうか。
 団地で生活していて常に感じるのは、地域の担い手が育っていない、少なくなっているということです。ですから外国人にも地域の担い手になってもらわないと、地域は崩壊してしまうと思うのです。

──そうしたお考えから「外国人との共生を考える会」という住民団体を立ち上げたのですね。2001年7月発足で、会は現在も地域で活動を続けています。
 外国人と一緒に地域づくりをする時代になったと認識するからです。彼らが地域の一員として必要な存在だと世間の人たちに知っていただきたい。もはや一団地の問題ではなく、社会全体の問題となっていると思います。日本社会は外国人を労働力としてしかみておらず、彼らが生活者であるとの視点が不足しているように思います。

──なるほど。
 私たちの取組みは、地域の一員として暮らしている外国人を対象にしたものです。地域に長く住み続ける人たちで、技能実習の人たちは対象外となります。こちらは受け入れている企業や行政がしっかり取り組むべきものだと思います。そうした役割分担をはっきりさせないと、地域社会は破綻してしまうと思います。

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