2018.03.26 住民参加
第3回 外国籍住民が自治を担う時代に ~愛知県西尾市~
地方自治ジャーナリスト 相川俊英
住民の6割が外国籍の団地
豊橋駅で東海道新幹線を下車して名古屋鉄道(名鉄)のホームへ移動し、名古屋本線岐阜行きの特急電車に乗り換える。赤とクリーム色のツートンカラーの電車は東海道新幹線の北側をまるで追いかけるようにひた走り、30分ほどで3つ目の新安城駅に到着。ここで名鉄西尾線の赤色の電車に乗り換え、三河湾に向かって南下する。西尾線の駅の間隔は短く、電車は動き出したかと思うとすぐに停車する。そんな動きを繰り返すこと約15分、電車は矢作川を越えて目的地である桜町前駅に到着した。
桜町前駅の改札を出て、駅前にある大きなスーパーを右手にしながら歩き、信号を渡る。そのまま直進すると、左手に大きな駐車場が現れた。社名の入った送迎用バスが十数台も駐車していたが、人影はなし。静まり返った駐車場の角を左折すると、5階建ての古い団地が視野に入った。愛知県西尾市内にある県営緑町住宅(以下「緑町団地」という)である。
緑町団地の敷地内に中学生らしき子どもが数人、何をするでもなくたたずんでいた。肌の色や目鼻立ちなどから、一見して外国籍の子どもたちと分かった。道路側に設置された団地のごみ収集場の掲示板をみると、ごみ出しのルールなどが日本語だけでなく、外国語でも表記されていた。ほかにもいろいろな案内板が団地内に設置されていたが、いずれも日本語だけでなくポルトガル語、英語、中国語での記載も加えられている。
ここ緑町団地は外国人の入居世帯が全体の6割近くに達する、日本でも指折りの外国人集住地域。名鉄桜町前駅近くに建設された県営住宅で、1983年に入居が開始された。建物は3棟あり、全体戸数は85戸。現在の入居戸数は71戸で、このうち外国人入居戸数が42戸。全体の約59.2%に当たる(2018年1月1日現在)。
多くの外国人が入居する緑町団地の周辺には、人材派遣会社の社宅用マンションなども建っており、地域全体の外国人比率も際立っている。町内会全体(桜町4部)の393世帯のうち、何と136世帯が外国人世帯だ。その中心は当初、日系のブラジル人やペルー人であった。
外国人居住者の多い地域では、生活習慣や文化の違い、日本のルールを知らないといったことなどから、どうしてもトラブルが頻発しがちである。日本人と外国人の住民の間に軋轢(あつれき)や対立などが生まれやすい。ところが、緑町団地周辺は外国人居住者が集中する特異な地域でありながら、住民間のトラブルが少なく、落ち着いた地域となっている。それだけではなく、時代に即した新たな地域コミュニティーづくりを住民主導で地道に進めている。外国人住民との共生を目指す様々な取組みであり、しかも外国人住民を巻き込んでのものだった。