2018.03.26 コンプライアンス
第6回 楽しいイベント、うっかり違反にご注意を(その2:身内のイベント・選挙時のイベント編)
【参考】
先日、国会議員の秘書が選挙区内の有権者に線香を配った件について、総務省が「政党職員や秘書が、氏名の表示のない政党支部からの寄附を持参すること」が199条の3が規定する「氏名が類推されるような方法」に当たるとは直ちにいえないとの見解を出しました。
これについていろいろ議論がされていますが、法律家として意見を述べるとすれば、総務省の見解自体は条文に沿ったもので特におかしなものではありません。
総務省の見解は個別具体的な場面を前提として「氏名が類推されるような方法」に当たるかどうかについては触れていません。あくまで「政党職員や秘書が、氏名の表示のない政党支部からの寄附を持参すること」の一般論について述べただけで、今回の件については持参した状況や渡した相手との関係、渡す際の説明等の諸般の事情を踏まえて「氏名が類推されるような方法」であったかを司法が判断することになります。
本連載でも、違反となるかどうかについてよく「諸般の事情」によって判断するといった説明をしています。公選法を含め法律が全てのパターンを網羅的に規定することは不可能であり、事案に応じた解釈の余地を残さざるを得ないのです。
解釈は、法律の規定の趣旨や社会通念に基づいて行いますが、「グレー」を「白っぽい」という人がいれば「黒だ」という人もいるように、真逆の結論になることが往々にしてあります。
総務省の見解を前提にして個別の事案を検討した結果、適法・違法両方の結論が出ることも当然にあるのです。
ちなみに199条の3は、199条の2の公職者等による寄附禁止について脱法的行為を禁止しようとしたものです。その趣旨から、今回の件で具体的にどのような事情があれば「氏名が類推されるような方法」といえるのか、あるいはいえないのか、考えてみるのも頭の体操によいかもしれません。
まとめ
今回は、読者の皆様も参加することが多い「イベント」に焦点を当てて検討してみました。解説にもあるように、まずは寄附に当たらないかどうかを意識しておくことが肝要です。厚意のつもりで、皆やっているから、いつもの慣例だから……いろいろな理由があるかもしれませんが、ダメなものはダメなのです。寄附の禁止が、こうした慣例による選挙制度の腐敗防止のためにも定められている一面を見逃してはなりません。
確かに、法律は必ずしも社会の常識と合致していないことがあります。公選法も改正が繰り返されてはいるものの、「あれ?」と思う規定も残っています(例えば、197条1項3号には候補者の乗り物として「馬」が出てきます)。
しかし、改正されない以上、これが現在の規律であり、あくまで現在有効な現行法に従わねばなりません。
この記事が、これまでの振り返りとこれからの備忘となれば幸いです。