2018.03.26 コンプライアンス
第6回 楽しいイベント、うっかり違反にご注意を(その2:身内のイベント・選挙時のイベント編)
検討
それでは、以上を踏まえて各設問の帰結と理由を検討してみましょう。
Q1について
まず、支援者によるビールの差し入れが、誰に向けてのものかを区別する必要があります。
公職者等宛てであった場合、公職者等自身のものとなったビールを参加者に配ることになり、199条の2により公選法違反となります。
後援会宛てであった場合、後援会がもらったものを参加者に寄附することになります。199条の5第1項は、原則として後援団体による選挙区域内の者に対する寄附を禁止していますので、ビールを差し入れることはできないことになります。もっとも、同条項の「当該後援団体がその団体の設立目的により行う行事又は事業に関し寄附」するものとして認めることも考えられます。この点、旅行で参加者にビールというお酒を振る舞うことは、いわゆる饗応接待(199条の5第2項参照)であり、第三者がする場合でも限定的に認めているにすぎないことからすると、後援団体における行事に関する寄附とは認められにくいと考えます。
支援者が旅行参加者に直接配る目的で、公職者等や後援会に預けていたにすぎない場合であっても、それは支援者が後援会旅行において参加者に対してする寄附に当たり、199条の5第2項の規制に服します。上記のとおり、ビールの提供は饗応接待に当たるため、差し入れ時期が一定期間中の場合は認められないことになります。
Q2について
旅行の写真は、安価といえども価値があります。したがって、公職者等が旅行に参加した地元後援者に対して配ることは、禁止された寄附に当たり許されません。
なお、後援会からの寄附と捉えた場合は、内容・金額にもよりますが、当該後援団体がその団体の設立目的により行う行事又は事業に関する寄附(199条の5第1項)と考えることもでき、一定期間外であれば認められる余地があると思います。
とはいえ、設問のように、後日の参加御礼の訪問時に公職者等自身が写真を配ることが後援会の活動であるとみるのは、苦しいと思われます。
Q3について
199条の2は、公職者等からの後援団体に対する寄附を認めています。しかし、一定期間中については、資金管理団体でない後援団体たる政党・政治団体やその支部に公職者等が寄附をすることを禁じています(199条の5第3項)。
したがって、本設問において、後援会が資金管理団体であれば差し入れができますが、そうでない場合は一定期間中は差し入れができないことになります。
Q4について
後援会のような後援団体は、その設立目的により行う行事において、通常用いられる程度の食事の提供をすることは許されています(199条の5第2項)から、お茶程度の提供であれば問題ないと考えられます。
後援団体が総会で記念品として手帳を配布することについては、解説で述べたとおり、記念品の配布が「設立目的により行う行事又は事業に関する」ものといえるか疑問があり、認められない可能性が高いと思われます。
Q5について
イベントの合間にその場に集まっている者に対して演説することは、「幕間演説」として認められています。しかし、幕間演説はたまたまその場に集まっている者に対してするものであり、もともと演説を予定して来場させたり、目的を秘して別の名目で集わせたりした場での演説は幕間演説とはいえず、演説会に関する規制の潜脱行為に当たります。
本設問では、演説をするに至った経緯・事情が不明ですが、ことさら各候補者の選挙演説を聞かせるために集合させたなどといった事情があれば幕間演説とは認められず、演説会に関する規制に服することになります。
その場合、本設問では各候補者が選挙演説をしていることから、164条の3第2項が禁止する合同演説会とみなされる可能性があります。
Q6について
選挙運動期間中は、配布できる文書図画が限られており(142条1項)、設例の市議会議員に係る選挙では、選挙はがき以外のビラ等の配布は認められていません。したがって、公職者等の氏名が書かれた名刺は配布できません。しかし、政党の入党案内は単なる党勢拡大のための政党の政治活動ですから、配布することができます。