2018.03.12 コンプライアンス
第5回 楽しいイベント、うっかり違反にご注意を(その1:一般イベント編)
(2)イベントでの振る舞い
節分の豆まきや餅まきなどでは、ゲスト参加者が来場者や参拝客に向けて豆や餅をまくことが恒例となっています。
この豆や餅ですが、もともと主催者側が来場者や参拝客にまくために用意しておいたものであれば、主催者に代わってゲスト参加した公職者等がまいているだけにすぎず、何ら寄附には当たりません。
では、公職者等がお金を払って豆や餅を買ってまく場合はどうでしょうか。
この場合、まく豆や餅は公職者等が代金を支払って主催者から購入したもの(私物)となりますから、来場者や参拝客に対する寄附となります(もっとも、豆数粒がどのくらいの価値があるのかという話もありますが、厳密にいえば財産上の利益がゼロではないため、このような結論になります)。
(3)玉串料や献灯料、祈禱(きとう)料
これもよく問題となります。玉串料や献灯料などは、一般に神社などでの供え物をするための金銭です。純粋な供え物は通常何らかの対価性を持つことはありません(ご利益はあるかもしれませんが)。したがって、支払先の団体又は神社等に対する金銭の交付、すなわち「寄附」に当たることになります。
もっとも、名称としては「玉串料」、「献灯料」、「初穂料」などであったとしても、神事や儀式を行ってもらうことに対する費用としての性質であれば、対価性を持つことになるため「寄附」に当たらないと考えることができます。
祈禱料については、一般的には祈禱をしてもらうための対価として支払うものですから寄附には当たりません。ただ、一般的な祈禱料に比して高額な祈禱料を支払うような場合などは、一般的な費用を超えた部分について対価性がなく実質的に寄附と認定される可能性があります。
結局、支払う名目ではなく、その支払に対価性があるかどうかが、寄附となるかの判断基準となります。
(4)差し入れ
イベントで物品の差し入れをすることは、まさしく寄附に該当します。公職者等が居住する町内会行事などに一住民として参加する場合も同様です。
では、町内会行事などで差し入れをする場合に、公職者等の家族が代わりに差し入れをすることはどうでしょうか。
公選法は公職者等による寄附のほか、公職者等を寄附の名義人とする第三者の寄附を禁止しています(199条の2第2項)。
したがって、公職者等の家族が公職者等本人の名義で差し入れをすることはできませんし、実質的に公職者等の負担で家族名義の差し入れをした場合も、公職者等からの寄附そのものとなりますので許されません。
結局、公職者等の家族が、自身の負担と名義で差し入れをするならば、上記の規制に該当しないことになります。
ただ、例えば「△△町○○(公職者等の姓)」といった形で差し入れた場合などは、公職者等本人からだと見られる可能性もありますし、家族の負担かつ名義で差し入れをしても真実か疑われてしまうことも考えれば、控えるのが賢明だと考えます。
2 公職者等への「寄附」問題
第三者が公職者等へ寄附をする場合について、公選法には直接規制する規定はなく、政治資金規正法(以下「規正法」といいます)が定めています(規正法21条以下)。
公職の候補者等に対しては、政党がする場合を除き、政治活動に関して金銭及び有価証券による寄附を行うことができません(規正法21条の2、規正法施行令2条)。
一方、選挙運動に関する場合であれば、金銭による寄附も可能です。
したがって政治活動に関していえば、公職者等に対して物品を贈ることはできても、お金や有価証券を渡してはいけないということになります。
これを前提に、問題となりそうな場面を検討してみます。
(1)イベントにおける湯茶接待
イベントに出席した場合、主催者から歓迎の湯茶が出されたりすることがあります。こうした湯茶接待については、社会的儀礼の範囲内であれば、そもそも「寄附」といえないのではないかと思われます。
これを越えて酒食が提供されるような場合は、社会的儀礼の範囲というのは困難であり、物品の寄附になると考えられます。
(2)イベントでのお土産
イベントに来場した公職者等に対しお土産を渡すことは、お茶や粗品程度のものであれば社会的儀礼の範囲ともいえます。しかし、特別に用意した菓子の詰め合わせやタオルセットなどを進呈するようなことは、必ずしも一般化した社会的儀礼とは考えにくいため、程度にもよりますが、公職者等に対する物品の寄附に当たると考えられます。
(3)お金を渡された場合
イベントで主催者からお礼として幾ばくかのお金を渡されたり、熱心な支援者から「社会のために役立ててほしい」などとお金を渡されることもありうるかと思われます。
この場合、公職者等がイベントに参加しているのは政治活動としてであり、そうすると現金を受け取ることは規正法21条の2第1項に違反することになります。
他方で、選挙活動に関してであれば金銭の寄附を受けることはできますが、イベントに参加した際に選挙活動に関しての寄附を受けるということは考えにくいと思われます。
なお、公職者等個人が政治活動に関して金銭の寄附を受けることはできませんが、政党の支部や政治団体としては金銭の寄附を受けることができます。
ですから、主催者や支援者からの金銭が政党の支部や政治団体に対する寄附(ただし、法人その他の団体は政治団体への寄附はできません(規正法21条1項))と見ることができるのであれば、金銭を受け取ることができます。その場合、受け取った政党支部ないし政治団体からの領収書発行や政治資金収支報告書への記載等の適切な処理が必要なのはいうまでもありません。
解説2:うっかり事前運動にも注意
イベントに参加した際、挨拶を交わしたり来場者と会話をすることが多いと思われます。特に選挙が近づいてきた際には、積極的になると思われますが、このような場合でも「事前運動の禁止」(129条)が顔を出してきます。
事前運動に当たるかどうかは、その行為の時期や場所、態様や目的などを総合的に考慮して判断することになります。
したがって、自らの政策や活動を話すような政治活動の範囲を超え、ついうっかりとはいえ次回の選挙に向けた立候補の意思の表明や抱負・公約など選挙と結びつく話をすると、その時期や態様などによっては事前運動と認定されるおそれがあります。