2018.02.26 住民参加
第2回 担い手を生み出す秘策は無作為抽出~福岡県大刀洗町~
地域への思いが募るOB・OGたちが動き出す
午前9時から始まったOB・OG会に20人が駆けつけた。会合には安丸町長や町の幹部職員のみならず、議会側から山内剛議長ら6人が参加した。もちろん、この日の主役はOB・OGたちだ。ナビゲーター役を務めた「NPO法人YouthCreate」の原田謙介・代表理事の講話の後、久しぶりに顔をそろえたOB・OGたちが一人ひとり、思いの丈を吐き出した。その内容が極めて興味深く、無作為抽出による住民協議会の効用のすごさを実感させられた。会合で吐露されたOB・OGたちの生の声の一部を紹介したい。
「住民協議会のメンバーになって気づきがたくさんありました。ホントに良かったなと思います。このままで終わりたくないと思うようになりまして、62歳で介護の仕事につきました。これからも(地域の)役に立ちたいと思います。とにかく意識が変わりました」
「私も一緒です。仕事を辞めてこのままでいいのかと思っているときに呼んでもらいました。1期のときに呼んでもらったら、もっと早く気づいたのになと、それが残念」
「私は町外からの転入者でしたが、協議会メンバーとなってやっと住民権を得たと思いました。大刀洗はつくづく良い町だと思います。これからもみんなで集まっていろいろ話し合いができたらと思います」
「私も協議会に参加して、一皮どころか二皮くらいむけました。今は町の応援大使の名刺をつくってもらい、あちこちで町のPRをしています」
「私は今まで読まなかった議会だよりを熱心に読むようになりました」
「私もそうです。自分が変わったからなのか、最近、議会だよりが面白くなりました」
ナビゲーターの伊藤さんがOB・OGたちに「議会を傍聴するようになった方は?」と問いかけると、4人が手を挙げた。いずれも協議会のメンバーになったことがきっかけだと明かした。つまり、それまでは誰も町の議会に目を向けることなどなかったのである。これに対し、原田さんが「(議会を傍聴するようになったことは)大きな変化だと思います。傍聴してみたことなどを身近な人にどれだけ伝えるかだと思います。ご自分だけの変化ではもったいないと思います」と指摘した。すると、福嶋教授も「議会を傍聴していて何か言いたくなりませんでしたか? (議会が)傍聴者も発言できるようにするとよいと思います。それでさらに大きく変化するのでは」と、話を展開させていった。福嶋教授は我孫子市長時代に行政主催の審議会で、傍聴者への発言を認め(5人まで1人3分)、それを議事録にきちんと載せる仕組みをつくっていた。
あるOBからこんな意見も飛び出した。「議会と住民協議会は微妙な立ち位置にあるように感じました。議会とのチャンネルが(住民協議会は)できていません」。鋭い指摘に対し、福嶋教授は「できれば議会は別の仕組みで、いろいろな方の意見を聞くようにすればよいと思います。行政は行政、議会は議会と重層的により多くの意見が集まるようになればと思います」と述べた。
OB・OGらが活発に意見交換を行い、議長・議員は専ら聞き役に回った。2時間半の予定時間があっという間にたってしまった。伊藤さんの最後のこんな発言が参加者の心に重く響いたように思う。「意識の高いことが偉いことではないと思います。意識(の高さ)を広げていくことが何よりも大事ではないでしょうか」。
無作為抽出型住民協議会への議会側の評価は?
では、住民協議会の取組みを議会・議員側はどのようにみているのだろうか。ちなみに大刀洗町議会の議員定数は12。男性議員が11人で、女性議員は1人のみ。当選回数別にみると、1期目が4人、2期目が4人、3期目が2人、そして5期目が2人となっている。当選回数の少ない議員が多い。
「右回りか左回りか方向は違っていても、目指している到達点は同じです。ともにより良い町にすることが目的です」
こう語るのは、大刀洗町の山内剛議長だ。熱心に住民協議会を傍聴している山内議長は
「ほーっという発見やそういう考え方もあるのかと、こちらもいろいろ勉強になります。議会も住民に対する報告会を開いていますが、住民協議会は若い人が多く、新住民もいて幅広い。参加する住民も勉強になり、成果を上げていると思う」と、好意的だ。ただ「最終的に(ものごとを)決めるのは、議会です」と、釘を刺した。
「住民参加の自治は大歓迎ですが、やり方については疑問視しています」
住民協議会にやや懐疑的なのは、花等順子副議長だ。
花等副議長も熱心に傍聴する議員の1人だが、納得できない点がいくつかあるという。1つは、テーマに詳しくない人も無作為抽出により議論に参加するケースがあることだ。委員になるのがきっかけとなり、いろいろなことを知るようになるのは分かるが、それにしては協議会の開催回数が少ないのではと指摘する。行政や政治に関心を持つ人が増えるまでには至っていないのではないかと、辛口だ。さらに、外部からのナビゲーターやコーディネーターに依存しすぎではないかとの疑問を呈した。さらには住民協議会で出た意見が議会に下りてこないので、議会とリンクしていないという。そんなこんなで「構想日本に若干、踊らされている感じがある」と手厳しかった。ちなみに、町が構想日本に支払う委託料は約280万円(2017年度)。構想日本はここから年に4回開催する協議会の経費を賄う。ナビゲーターなどの交通費や宿泊費なども全て含めてだ。
自治の担い手は特定の人たちではない
町の住民や職員、ないしは議員がより主体的になって住民協議会に関わるべきではとの見方は、確かにそのとおりであると思う。しかし、無作為抽出型の住民協議会は取組みが開始されて間もない。試行錯誤や改善見直しが必要なのは、むしろ当然といえる。指摘はもっともだが、行政や政治との接点を持てず、みつからず、半ば「無関心であること」を強いられている一般住民にとって、閉ざされていた世界の窓を開くきっかけとなるのは、間違いない。その一点だけでも取り組む価値は計り知れないと思う。
ところで、無作為抽出型の住民協議会は、何も自治体でないとできないというものではない。ある自治体では議会の会派が選挙人名簿を基にして、無作為抽出型の住民協議会をすでに開催している。また、無作為抽出の住民協議会を自分たちで開催しようと動き出している住民グループさえある。自治の担い手は特定の人たちではなく、本来、住民一人ひとりのはずである。その観点からすれば、無作為抽出による住民協議会こそ「自治の担い手の再生」に結びつく第一歩と考えるが、いかがだろうか。