2018.02.26 住民参加
第2回 担い手を生み出す秘策は無作為抽出~福岡県大刀洗町~
活気に満ちあふれる協議会場
2月3日の住民協議会は4期目の「第3回目会議」に当たり、テーマは3期目に引き続いて「防災について」。大刀洗町は災害の少ない町といわれていたが、昨年7月の「九州北部豪雨」によって近隣の朝倉市で甚大な被害が出るなど、防災は住民にとって他人ごとではなくなっている。このため、4期目の住民協議会は行政が抱える課題の解決により重きを置き、町が作成する「避難所運営マニュアル」に住民協議会での議論の内容を反映させようというねらいだ。この日が通算でいうと、20回目の住民協議会になる(進捗報告会を除く)。
庁舎3階の大会議室は人でいっぱいとなった。部屋中央にテーブルの塊が6つできており、それぞれ5人から7人が向かい合っていた。無作為抽出で選ばれた住民と役場の課長たちで、総勢31人。傍聴席が部屋の後方に用意されており、左側にスーツ姿の男性が5人。宮崎県木城町からの視察団だ。真ん中部分に同じく視察に訪れた鳥取県と島根県の住民グループが6人。こちらは女性4人に男性2人で、夜行バスで当日朝の大刀洗入りだ。傍聴席の右の方には町の一般住民や議員、OB・OGたちが並んだ。傍聴人の総数は、途中での出入りもあったが20人ほど。また、部屋の右側に安丸町長や幹部職員らが一列となって椅子に腰かけ、協議の内容にじっと耳を傾けていた。
午後1時から「構想日本」の伊藤伸・総括ディレクターの司会進行で始まった。大刀洗町から委託を受け、住民協議会の運営に協力する伊藤さんは、町の全ての協議会に出席している唯一の人。大刀洗町への訪問は26回に上り、地域の隅々に精通する。行政の仕組みや実態、各地の取組みなど自治の現場を知り尽くし、大刀洗町以外での無作為抽出型住民協議会(合計で10自治体)もコーディネートする「ミスター住民協議会」とでもいうべき人物だ。
伊藤さんが前回のおさらいと今回の流れを簡潔に説明した後、ナビゲーター役の福嶋浩彦・中央学院大学教授が防災の議論を進める上での留意点を説明した。福嶋教授は千葉県我孫子市の元市長で、消費者庁長官も務めた自治のエキスパート。「最終責任や決定権がどこにあるかを明確にしないといけない」、「原則をしっかりさせた上で、柔軟にやらなければいけない」、「ものごとをできるだけ現場に近いところで決める」と、いくつかのポイントを挙げた。その後、6つのグループごとに防災ワークシートやハザードマップをもとに話し合い、それぞれがまとめの報告を行った後、全体での意見交換となった。
自分ごととして真剣に話し合う住民たち
議論となったのが、災害が平日昼間に起きた場合、学校にいる子どもを親が迎えにいくべきかどうかという点だった。この論点に対し、福嶋教授は「学校の立場の安全を優先したような(防災)計画をつくってはいけない。子どもの安全を第一に考えてつくるべきで、子どもを家に帰したらかえって危険というケースもある。現場の判断を阻害するような計画にしてはいけない」と、意見を述べた。また、避難所の運営についても意見が交わされた。行政がどこまで関わるのかといった疑問や注文だった。これについて福嶋教授が「マニュアルの作成は行政が責任を持ってやる、避難所の設置もそうです。しかし、その内容を実行するのは住民です。そして最終責任は町長がとるというのが、大原則です」と説明すると、会場内に納得感が広がったのだった。
福嶋教授は最後に「たくさんの人と防災について議論し、たくさんの人と共有したマニュアルにすることが大事です」と語り、その後を伊藤さんが「周りの方たちともお話をしていただき、広げていく努力をしていただけたらと思います」と話をつなぎ、3時間に及んだ住民協議会はお開きとなった。次回2月24日は町の担当課がまとめた報告書のたたき台をもとに議論を重ね、意見集約する予定となっている。
実は、住民協議会が開催された2月3日の午前中、大刀洗町庁舎の隣の建物で興味深いもう1つの会合が開かれていた。住民協議会の委員を経験したOB・OGの有志が企画したもので、各自のその後の変化や近況を語り合う初めてのOB・OG会だった。無作為抽出でたまたま住民協議会のメンバーとなった住民の中には、参加したことによって地域や行政への意識や思いが変わったという人が少なくなかった。しかし、そうした思いをいかにして次に結びつけていったらよいか分からず、フラストレーションを募らせる人もいた。そうしたOB・OGが互いの近況やその後の変化を語り合うことで、次なる行動に結びつけられないかと企画したものだ。