2018.01.12 コンプライアンス
第4回 便りがないのは良い便り!?
2 選挙後のあいさつ規制(178条)
(1)規制の内容
皆様ご経験のとおり、選挙が行われ当選又は落選という結果が出た後は、有権者や支援者の方々へ辻立ちその他の方法であいさつをされているかと思います。
こうした選挙後(無投票当選の場合も含みます)のあいさつについて公選法は規制を設けており、あいさつ状についても規定があります。
すなわち、178条は、選挙日(無投票当選の告示日)後、当落選に関して有権者に対するあいさつの目的をもってする一定の行為を禁止しています。
その中で同条2号が「自筆の信書及び当選又は落選に関する祝辞、見舞等の答礼のためにする信書並びにインターネット等を利用する方法により頒布される文書図画を除くほか文書図画を頒布し又は掲示すること」を禁止しているのです。
具体的に要件を分解すると、以下のとおりとなります。
① 主体
条文上「何人も」とされており、平時の時候のあいさつ状とは違い、誰であっても対象となります。したがって、後援者や支援者が公職の候補者等の当選に関してあいさつ状などを配った場合も該当することになるので注意が必要です。
② 相手方
選挙人、すなわち有権者を指します。
③ 禁止される行為
当選又は落選に関してあいさつする目的をもって文書図画を頒布・掲示することです。「頒布」、「掲示」は142条、143条のそれと同じです(本連載第1回をご参照ください)。
④ 禁止される期間
その選挙の投票日又は無投票当選の告示日から後であり、投票箱が閉まった後を指します。期間に終わりはありませんので、翌年以降にあいさつ状を含む文書図画を配ったり掲示したりすることも違反となります。
(2)例外
この規制についても例外が存在し、以下の場合は許されています。
① 自筆での信書
「信書」とは、誰かしらの特定の者に宛てた文書であり、必ずしもはがきや手紙である必要はありません。
したがって、宛先が「各位」では特定された者とはいえませんので、「信書」とはいえないと考えられます。
「自筆」は147条の2の場合と同様、自らの肉筆によって全体を記載することが必要です。
ただし、この自筆の信書は147条の2のあいさつ状の場合とは異なり、必ずしも「答礼のため」である必要はありません。
② 当選又は落選に関する祝辞や見舞い等の答礼のための信書
答礼のために出す「信書」の場合も、当選・落選に関してあいさつ状を送ることができます。この場合は、147条の2の場合とは異なり、「自筆」である必要はなく印刷したものでも可能です。
③ インターネット等を利用する方法により頒布される文書図画
平成25年の公選法改正により、インターネットを利用した選挙運動が解禁されました。それに伴い、インターネットを利用した選挙後の文書によるあいさつについても認められることとなりました。
この「インターネット等を利用する方法」には、電子メールも含まれます(142条の3参照)。したがって、ホームページやフェイスブック、ツイッターのほか、電子メールで当選・落選のあいさつを行うことも可能です。
解説2:その他の規制にも注意を
1 事前運動の制限(129条)
あいさつ状の規制には該当しない場合でも、内容や時期によっては、本連載ではおなじみの事前運動(129条)に該当する場合があります。
例えば、選挙が予想されている時期に、ことさら選挙を意識した内容を記載した時候のあいさつ状を出したり、当選祝いに対する答礼のための信書において、他の選挙の候補者への応援を呼びかけるような場合です。
2 文書図画の頒布規制(142条)
連載第1回で解説したとおり、公選法は選挙運動期間中における文書図画の頒布について厳しく制限をしています。
許されるあいさつ状であっても、その差出人が候補者であったり、記載内容に候補者の激励などが含まれていれば、142条の規制に抵触し、禁止されます。
3 寄附の禁止(199条の2)
あいさつ状や祝電、弔電等は通常、価値を持つものではありません。しかし、あいさつ状に記念品などの物品を添えたりした場合は、その物品が財産上の利益の供与になるとして、公選法の禁止する寄附となる可能性があるので注意が必要です。
特に問題となりやすいのは、弔電における線香や祝電の際のぬいぐるみ・花などです。電報文それ自体は寄附には当たりませんが、最近の電報サービスなどで付けることができるこれらの物品については、単なる祝電、弔電の範囲を超えた財産上の利益の提供に該当し、寄附に当たり禁止されると考えられます。