2017.12.25 議会事務局
第18回 議会事務局の新たな役割――議会との二人三脚による住民自治の進化・深化――(下)
☆キーワード☆
【議会事務局の共同設置】
第31次地方制度調査会答申(「人口減少社会に的確に対応する地方行政体制及びガバナンスのあり方に関する答申」2016年3月16日)では、議会図書室の役割が低く評価され、また議会事務局についてはその充実といった抽象的用語に終始している。また、小規模議会に限定しているとはいえ、共同設置論を二度にわたって強調している。
第3 適切な役割分担によるガバナンス
3 議会
(2)議会制度や議会運営のあり方
⑤ 議会活動に対する支援の充実
議会がその役割を十分に果たすことができるよう、議会活動に関する議員への研修の充実や、議会事務局職員の資質向上や小規模な市町村における議会事務局の共同設置を含めた議会事務局の体制強化や議会図書室の機能向上が必要である。
⑧ 小規模な市町村における議会のあり方
団体規模に応じた議会のあり方については、それぞれの地域の実情に合わせた議会機能の充実・強化に努めていくべきである。特に、小規模な市町村においては、議員数や議会事務局の職員数が少ないこと等により議会機能を十分に発揮することが難しい状況もあることから、住民参加等により議会機能を補完する必要がある。/議会事務局の共同設置は制度上認められているが、取組は進んでいない。小規模な市町村で単独での議会事務局の充実が困難な場合等においては、議会事務局や議会図書室の共同設置等を行うことも有効な方策である。
これを読むと、議会事務局機能を充実させようとしているのか大いに疑問である。共同設置は、議会事務局及び内部組織(例えば法制担当課)も可能になった。活用できるのは、小規模議会だけではない。筆者は、法改正に伴い、活用できる事項は大いに活用するべしという視点から様々な提案をしてきた。しかし、三議長会を含めてどこからも提案がなかったこの共同設置は、大きな問題を抱えているので疑問を呈している。
しかも、31次地制調答申は、議会図書室にまで共同設置を提案している。筆者は、定型業務や、独立性・中立性・専門性が不可欠な業務(監査委員・監査委員事務局(後述するように、その際議会の「監査機能」の充実が必要)などが含まれる)などは共同設置によって充実すると考えている。しかし、果たして議会事務局や議会図書室が共同設置になじむのか冷静に考える必要がある。良心的な研究者や議会事務局職員等も共同設置論を提案しているので、簡単に何が問題かを確認しておこう。共同で作業することと(共同的な設置)、地方自治法上の共同設置には大きな隔たりがある。
その前に、議会事務局の充実を議論するのであれば、市町村の議会事務局がいまだに任意設置であることを忘れるべきではない(自治法138②)。議会には議会事務局が不可欠であり、議会(狭義:議員によって構成される機関)と議会事務局は車の両輪である。地方分権時代に必置制の強化はなじまないという意見も聞かれるが、都道府県議会で必置となった時点で、本来挿入すべきであった。忘れられていた事項を挿入するだけである。なお、この点は、監査委員事務局が市町村の場合、任意設置であることが問題なのと同様である(自治法200②)。
共同設置は、幹事自治体(代表団体)に集約されることを前提とする。議会事務局の共同設置の場合、正確には議会事務局という機関とその職員である。もちろん、構成自治体(関係団体)の議会の議決によって共同設置は行われ(規約の制定)、財政も構成団体が担う。そして、指揮監督は構成議会議長が行うことになる。
経費は構成自治体の負担であるが、幹事自治体の歳入歳出予算に計上され、幹事自治体の監査委員が監査を実施することになる(自治法252の11②④)。そもそも、共同設置する機関の執務場所は、明確に規約で定めなければならない(自治法252の8Ⅲ、抽象的な定め方ではなく、「具体的に場所を示すべき」ことだろう)。また、共同設置された議会事務局の職員は、幹事自治体の議会の議長が選任し、幹事自治体の職員となる(自治法252の13、252の9③⑤:定数は関係自治体の議長が協議、選任に当たっては幹事自治体の議長が単独で行う場合と、関係自治体の議長が協議して候補者を選定し、その中から幹事自治体の議長が行うことが想定される)。
議会事務局の共同設置は、それぞれの自治体の独自性を有した事務であり定型業務ではないこと、繁忙期が重なること、共同設置する議会間の利害が対立する場合に機能不全になること、などの理由からの慎重論も聞かれる。それ以上に問題なのは、原理的には(運用上、構成自治体の議会事務局職員からの出向であり、執務は構成議会で行うということも想定できないわけではないが、それならば共同設置の意味は何かということに応えなければならない)、幹事自治体以外の議会に議会事務局がなくなるという「根無し草」状態に置かれることである。つまり、関係自治体の議会の議長すべてに指揮監督権限はあろうとも、幹事自治体の議会以外、議会事務局長(さらに一般的には職員も)はそこにはいない。したがって、二元的代表制を担う議会を支援する議会事務局にはなじまない。活用したくなければしなければよいという活用論ではなく、自治の問題である。
なお、議会の充実のための支援策という根本の議論をクリアしていないが、内部組織の「法制担当課や法制担当職員等」の共同設置は、現段階での次善の策ともいえる。その際、例えば、町村議会における議会事務局職員の現状を踏まえて、法制担当という新たな機能を付した職員を共同設置に動員するという視点が必要である。常にそれぞれに配置されている議会事務局本体を充実させる必要がある。
こうした共同をイメージするのであれば、「必要とあれば、共同設置の場合も含めて、議会に専門委員を置くことは可能」であるし(今村 2012)、都道府県ごとの市議会議長会(持ち回りの慣習をなすことは前提)や町村議会議長会で専門家(弁護士・公認会計士・税理士・研究者等)を雇用・提携し、それが各議会を支援することも考えられる。そもそも、こうした制度設計以前に、外部資源として専門家を各議会・議会事務局が活用してもよい。また、まさに今日進展している議会事務局職員ネットワークは、「共同的な設置」(香川純一)である。
ともかく、議会事務局本体の共同設置は、自治の原則から問題外であり、法制担当課の共同設置でも、また他の制度設置でも、まずは、議会自体、またそれに寄り添う議会事務局自体が、住民の福祉向上に向けた提案をする政治文化がなければ、それらの制度は使いこなせない。