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2017.12.25 選挙

選挙制度いじりに向けて ――『地方議会・議員に関する研究会報告書』について(その3)――

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東京大学大学院法学政治学研究科/公共政策大学院教授(都市行政学・自治体行政学) 金井利之

はじめに

 この連載では、総務省に設置された地方議会・議員に関する研究会がまとめた『地方議会・議員に関する研究会報告書』(2017年7月、以下『報告書』という)の検討をしているところである。前回は、市区町村議会議員の選挙制度の課題についての議論を検討した。それによれば、特に大規模団体で問題があり、それは、極端に低い最低得票率で当選できるということと、候補者が多数のため有権者に過大な情報コストを強いることにある。結局のところ、議員定数が多く、したがって候補者数が多いことに帰着するわけである。
 そこで『報告書』は、「実効的な代表選択」を可能とする市区町村議会議員の選挙制度として、以下の3つの案を提示した。具体的には、比例代表選挙、制限連記制、選挙区設置である。

比例代表選挙

 比例代表選挙にすれば、『報告書』によれば、個人本位ではなく、政策・政党等本位の選挙制度への移行となるという。有権者が候補者との個人的なつながりに依拠していない場合や、多様な意見を反映する場合には、適しているという。基本的は、中規模から大規模団体に親和的という。比例代表選挙では、政策・政党等本位の選挙が促進され、政策が明確化され、議員のなり手について多様性や専門性の確保が期待できるという。政党等が媒介するので、投票容易性・比較可能性も高まるという。また、議席配分率と得票率は比例するので死票が減り多様な民意を正確に反映できるという。さらに、選挙区割画定という実務的に厄介な問題を回避できる。
 ただし、『報告書』は、留意点も述べている。政党化などが一定程度定着していることが前提となるので、指定都市・中核市など中規模から大規模団体に限られるという。そして個別地域の代表制が減少または消滅するという。さらに、リコールのあり方も検討が必要だという。
 このように、比例代表選挙は、定数を削減しなくても、実質的な選択肢数を削減できる効果が期待されるという。もっとも、これは既存の政党制がある程度定着している場合に限られる。例えば、定数30で、政党数5の政党制がある場合には、選択肢は5つに絞られ、情報コストも削減できる。しかし、定数30の比例代表制であれば、3%程度の得票をすれば議席獲得できるのであるから、政党数がどんどん増える可能性もある。比例代表制は小党乱立の可能性を秘めている。もっといえば、「政党ひとり」のように、各候補者が個人=政党として立候補することを否定できない。
 比例代表選挙が機能するのは、政党制が定着しているときのみである。逆は真ならずである。比例代表選挙によって、政党本位ではない社会において、政党制を強固にすることはできない。そして、このようなバラバラの多数の小党乱立が進めば、有権者の情報コストは高まるばかりである。
 逆に、少数の政党制によって選択肢が絞られると、今度は、政党内の個々の議員に対する選択ができないという問題が発生する。この場合には、非拘束名簿方式にすれば、同一政党内での個々の候補者間での選択も可能になる。しかし、個々の候補者間での選択を求めるのであれば、有権者の情報コストは低くならない。また、そうした膨大な情報を扱いたくない人は漠然と政党名で選択し、情報を膨大に収集できる人は政党内で候補者を選択できるということで済むという見解もあるが、こうなると、結局、特定の候補者と支持者層との個人的つながりがある方が有利ということであり、現状と大差はないのである。

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