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2017.12.25 選挙

選挙制度いじりに向けて ――『地方議会・議員に関する研究会報告書』について(その3)――

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制限連記制

 『報告書』が案2として掲げているのが、制限連記制で、必要に応じて選挙区設置を進める、というものである。これによって、現行の地域代表制に配慮しつつ、議員間のグループ化を促すとともに、住民のより多様なニーズを反映するという方向である、とされる。小規模から中規模団体に親和的だという。有権者が複数の候補者に投票できることで、より多様なニーズを反映できるとされる。しかし、この意味するところはよく分からない。同じ議員グループに連記することを期待するのか、異なった議員グループ間に分割して投票するということなのか、説明されていないからである。
 『報告書』によれば、メリットは候補者間グループ化を促すことで、情報が整理されるということだという。この観点からすると、候補者数よりも選択肢数を減らすということが重視されているようである。しかし、同時に『報告書』は、投票において連記制によって個人の多様なニーズを反映できることもメリットとしている。これは、有権者が同時に複数の選択肢を選ぶという意味で、分割投票を想定しているようにも見える。この観点からすれば、比例代表選挙においても、連記制を導入した方がよいということになろう。
 そして、連記制の場合には、当選者の最低得票率(投票人数)が一定程度上昇するそうである。この点は、分かりにくい。候補者9人で有権者1万人ならば、単記制の場合には10分の1の1,000票で当選確実である。では2人連記になると、有権者1万人だから2万票になるので、2,000票が必要になるということである。つまり、候補者としては1,000人にだけ働きかけるのではダメで、広く2,000人に働きかける必要であるということであろう。もっとも、同一有権者が同一候補者に累積連記できるのであれば、必ずしも意味はない。したがって、ここでいう連記とは、別の2人の候補者に投票をしなければならないという意味である。
 もっとも、『報告書』が指摘するとおり、複数の候補者を選ばなくてはならないから、単記制以上に情報コストが増えてしまう。こうなると、実効的な選択はできない。また、有権者の戦略的投票行動も避けがたい。もっとも、これは、「行きすぎ」と見るのか、「多様なニーズの反映」と見るのか、という価値判断の問題であろう。また、『報告書』の指摘のとおり、連記制は必ずしも政策・政党等本位のグループ化になるとは限らない。さらにいえば、そもそもグループ化が促進されるかも不確定である。すでにグループになっている複数の候補者の場合には、票割りをするまでもなく、簡単に投票できるだけである。しかし、バラバラの候補者としては、とにかく名前を書いてもらうことが大事なのであり、グループを形成する意味はない。

選挙区設置

 『報告書』は案3として、投票方法については現行制度の単記非移譲式を維持しつつ、選挙区設置を進めるとする。選挙区設置に関しては、案2でも組み込まれていた。選挙区設置は、現行の地域代表制を基本的に維持しつつ、有権者の情報コストの軽減や投票環境の変化を促すという。簡単にいえば、選挙区設置とは、現行の事実上の地縁的な地域代表の議員を、制度的に強制するものである。
 もっとも、現行の全域1区の大選挙区の場合、全域から広く浅く得票する候補者は当選できたが、選挙区設置をすると、こうした広く浅く支持される議員は登場できなくなる。つまり、現在の地縁型議員をさらに助長するものとなろう。もっといえば、現行の地縁的・個人的なつながりに依拠することを、制度的に助長するのである。それが『報告書』の目指す方向性と一致しているのかは、疑問ではある。
 ともあれ、選挙区を設置すれば、全域1区よりも議員定数が減り、したがって、候補者数が減る。そうすれば、「ジャムの法則」のように、実効的な選択がしやすくなることは期待されよう。例えば、定数50で候補者が80人もいたら選択のしようがないが、5選挙区に分ければ各定数10となり、候補者が各16人になれば、まだ情報コストが下がるといえる。その限りで、選挙区設置には意味がありそうである。また、選挙区定数が50から10に減れば、当然ながら、当選に必要な(選挙区ごとの)最低得票率も上昇する(ただし、自治体全体としては、最低得票率は変わらない)。
 もっとも、『報告書』では、小規模団体に適するとするが、これは全く意味不明である。政党化が進行していない小規模団体では、比例代表選挙が親和しないのは当然であるが、しかし、総定数も中規模・大規模団体よりは小さいのであるから、選挙区に分けなければならない必要性は低いといえよう。むしろ、定数が大きいにもかかわらず、政党化が進行していない自治体の方が、選挙区設置に適しているように思われる。さらにいえば、小規模団体で選挙区設置をすれば、定数1ないし3程度となり、少数意見を反映しにくい仕組みになるかもしれない。政党化も進行しない小規模団体で、定数の著しく小さな選挙区を設定すれば、単なる「封建領主」を生むだけであり、新人などの参入が難しくなるからである。
 そもそも、選挙区設置または区割画定は、実務的に極めて難しい。『報告書』が述べるように、公正性の確保や事務コストなどの問題が生じるからである。また、定数不均衡によって、一票の格差問題という、市区町村議会がこれまで回避してきた厄介な問題を、わざわざ招き入れることになる。

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