2017.11.27 議会事務局
第17回 議会事務局の新たな役割――議会との二人三脚による住民自治の進化・深化――(上)
(3)議会事務局改革論の問題意識と視点
新たな議会に適合した議会事務局改革を構想する場合、立脚する場を確認する必要がある。筆者は、理想を求めながらも現実から出発する立場を採用している。もちろん、そうはいっても相違はある。ここでは、立法調査課(あるいは係)等の設置、及び議会事務局職員の原則独自採用(かつての速記者のように)は重要であるとしても現時点では困難であるとの認識に立ち、執行機関からの出向を前提(すべてとはいわないまでも)とせざるを得ない現状(積極的な職員も育っている現状)を踏まえた改革を模索する。問題意識と改革の視点を確認しておこう。
まず、問題意識としては、新たな議会にとって議会事務局の充実は不可欠である。それを前提として、議会事務局職員が自律的に動ける制度と手法を開発したい。いわば、議長の任免権の問題を踏まえた制度的保障である。
議会事務局は新たな改革の段階に入った。それにもかかわらず、富山市の政務活動費の不正受給問題に端を発したチェックの甘さや、情報公開請求者・議会傍聴者情報の議員への提供など議会事務局が抱える新たな問題が浮上している(チューリップテレビ取材班 2017)。
出向制度があるがゆえに、議会事務局職員が首長及び行政職員へ議員情報を提供する、議会と首長の対立時に議会側にはつかない、という問題が指摘されてきた。明示的・暗黙的かはともかく、首長等から議会事務局職員への指示・強制のベクトルである。それに対して、今日では、議会事務局職員に対して、議会・議員が影響力を行使するという、議会・議員から議会事務局職員への指示・強制の新たなベクトルが浮上した。議会多数派が継続的に存在している場合は、このことが生起しやすい。その多数派と首長とに緊張関係を伴わなければ、この関係は増幅する(2)。
もちろん、実際にこれらの指示・強制はないとしても、また逆に議会事務局職員からの要請であるとしても、出向制度や議長の任免権という議会事務局職員をめぐる構造を意識する必要がある。現実に気概と能力を有する議会事務局職員が育っている。ただし、個人や意欲に議会事務局の充実を還元しては、その活動は広がらない。「構造」を意識して、新たな議会事務局の役割を担う制度的保障が必要である。
もちろん、その前提として、議会・議員が「住民自治の根幹」としての議会運営を行っている、あるいはそれに向けて活動を開始していることが必要となる。議員が矜持(きょうじ)を保つとともに、住民による議員への統制はこれを進める。住民の代表としての正統性は議会・議員にあることから、議会事務局はあくまでも議会を支援する役割を担うが、「今そこにある議会」にとどまらず、「将来の議会」の支援、つまり議会事務局側としても住民を意識した提案が必要となる。また、議会にも議会事務局職員参加が当然である。議会事務局長が議長の「命を受け」るが、その他の職員は上司の指揮を受けるという指揮命令系統の意味も考えるときであろう。ともかく、議会事務局職員が積極的に動ける制度保障が必要である。本連載では、これを主題的に検討する。
こうした問題意識を踏まえて、以下、議会事務局の改革の視点を明確にしておきたい。議会事務局論を模索する上で、2つの視点から考えたい(重なり合う領域(活動)もある。その関係は後述する)。
① 議会を支援する議会事務局という視点
議会改革が進展し、それに適合する議会事務局をイメージする。従来の議会における議事と総務といった2つの大きな役割の拡充とともに、それぞれの役割の転換が求められる。具体的には、政策法務の役割の拡充であり、議事や総務にせよ従来とは異なる新たな運営の役割(例:議員間討議の重視、住民と歩む議会を進める議会のサポートなど)を担うことになる。ここでは、新たな議会と一体となった議会事務局というイメージを描いている。
② 機関競争主義(二元的代表制)を踏まえる視点
議会の役割が大きく変わる中で、機関競争主義を作動させるための議会事務局の役割は何か、という問題設定が必要になっている。議会・議員だけを考慮した活動ではなく、議会事務局自体が、住民や行政職員との連携を行うのである。これらの活動は、機関競争主義を作動させるには不可欠なものであると考える。住民との関係では、議員が常に窓口機能を担うわけでも、議会が政策・監視を担うがその調整に当たってすべてを議員が行うわけではない。これらが意識化されなければ、議会と首長等、住民と議会の調整機能が水面下に置かれる。結局、住民からの接触に消極的になったり(閉鎖的な議会の助長)、行政職員との関係では「スパイ」と映ることにもなる。
この2つの視点は、それぞれでも、また相互に緊張感をはらむことも多い。それを踏まえながらも、議会事務局は「今そこにある議会」だけではなく、「将来の議会」の支援の役割も担うというミッションによって統合されることを強調することになる。
☆コラム☆
【議会事務局についての多様なイメージ(議会事務局職員の方の姿勢から学んだこと)】
① 議会が住民のために頑張るから頑張れる(北海道栗山町議会・中尾修元事務局長)。出向制度の下で、議会側にはなかなかつけないが、住民自治を進める議会を支援する姿勢を強調している。主体的に議会事務局が動くという姿勢とは異なるように感じるかもしれないが、住民自治を進める議会を創り出す「黒子」として活動する自覚である。
② 議会と議会事務局が「車の両輪」であると提起(三重県議会・高沖秀宣元事務局次長)。筆者が議会と首長を車の両輪と指摘したことに対しての応答による。なお、この文脈には、軍師論(大津市議会・清水克士議会局次長)がある。「軍師」というと、個人をイメージしやすいが、チーム議会事務局を強調したものに、山口県山陽小野田市議会事務局による、議会基本条例制定をめぐっての提案=「気づき」がある。
③ 政策過程全体にかかわれるから面白い(福島県会津若松市議会・井島慎一事務局元職員ほか)。執行機関の縦割りに対する総合性及び時間をかける執行機関に対する迅速性などによって、住民自治を体感しやすい。議会事務局職員に対するアンケートからも、この点は浮かび上がっている(江藤 2011:第5章及び資料)。
④ 「居心地」のよい職場ではない:「やりがい」とは異なる(前出・中尾修)。やりがいはあるが、議長・議員と、また首長・職員との間に常に緊張感がある。居心地のよい職場というわけではない。明確に分ける必要がある。
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こうした新たな議会を創り出す議会事務局のイメージに対して、その方向とは逆のイメージもある。例えば、「議会事務局の役割は、執行機関の邪魔にならないように議会をリードすること」(首都圏の市の議会事務局長)、「議会は行政のアマチュア集団」、「その仕事の中心は議事運営を間違いなく行うことにあり、議員はそれ以上を求められても実行することができない」(「地方議会日誌1028」『自治日報』2011年6月3日付)など、である(江藤 2012)。