2017.11.27 選挙
担い手不足の中の候補者の「多さ」 ――『地方議会・議員に関する研究会報告書』について(その2)――
極端に低い最低得票率
政令指定都市を除く市区町村は、通常は全域一区の大選挙区となる。つまり、定数が非常に大きい。そのため、現行の選挙制度では、当選に必要な最低得票率が非常に低くてよいのである。具体的に説明すると、定数30であれば、極端な理論上の数値でも、31分の1の得票率で必ず当選できる。つまり、3%程度で絶対当選圏である。実際には、候補者が31人より多ければ多いほど、最低得票率は低くてすむ。つまり、競争倍率が高ければ高いほど、少ない得票率で当選できる。通常、競争倍率が低ければ低いほど、ほとんど競争は作用していないことになるが、実は、高くなっても最低得票率というボーダーラインが下がって競争は作用しなくなる。また、一部の上位当選者が大量得票すれば、やはり当選に要する最低得票率は低くてすむ。
『報告書』によれば、候補者は特定の少数の有権者層の支持だけを固めればよいので、有権者の一部にだけ個人的なつながりをつくればよく、議員は多くの有権者とつながりがなくなるわけである。こうした狭い範囲の個人的なつながりに依拠した選挙になることが、低投票率など有権者の無関心につながっている可能性がある、と指摘されている。
もっとも、多数の議員が手分けして有権者に選挙運動をして、それぞれに個人的なつながりを形成すれば、議会全体としては問題がないともいえよう。さらにいえば、特定の少数の有権者層が議員によって代表されるということは、多様な住民の意向を反映する議会にはふさわしいといえよう。特に、首長は定数1であるから、住民の全体的・平均的・中間的な多数派に訴えて選挙運動をせざるを得ない。いわゆる「中位投票者」というものである。とするならば、議会が、こうした首長選挙によっては掬(すく)いきれない特定少数の有権者層から、バラバラに代表を構成するのは望ましいかもしれない。
端的にいって、3%程度が、そんなに低い得票率といえるのかということである。ドイツの5%阻止条項からすれば、3%では少なすぎるかもしれないが、逆にいえば、5%とするならば、定数20程度までは問題ないといえる。また、参議院比例区は2%程度であるから、3%が特に低いともいえない。2%ということは、定数50(世田谷区議会・練馬区議会・船橋市議会などの定数)程度までは問題ないということになる。
過大な情報コスト
『報告書』によれば、大規模団体の議会では定数が数十名になる例もあるという。その場合、候補者の数も多数となる。すると、「白紙の状態から有権者が全ての候補者の状況を十分に把握するには多大な労力を要する」ため、投票容易性も比較可能性も限られてくるというわけである。確かに、選挙ポスターの立て看板に、60人以上ものポスターが貼られているのでは、何がなんだか分からないというのは実態である。いわゆる「ジャムの法則」にあるように、あまりに選択肢が多いと、結局、選択できない状態に陥るわけである。この点は一理あろう。
白紙の状態から多数の候補者は選択できない。逆にいえば、白紙ではない有権者は、意中の候補者を見いだすことは容易である。このため、あらかじめ候補者と個人的なつながりのある有権者にのみ選択肢が示され、候補者と個人的なつながりのない有権者には、選択肢が示されていない状態になる。前者の特定支持層を候補者が固めれば当選できる。後者は投票しないか、投票したとしても、いい加減になる。この意味で、過大な情報コストを課する膨大な定数は問題があろう。
もっとも、政党のラベルが機能するのであれば、実質的には選択肢の数は限定される。とはいえ、同一政党ラベルの中では、個人間での得票を選択することは困難である。しかし、政党ラベルで絞込みが可能であるならば、有権者が収集すべき情報は、同一政党内の候補者間だけになるので、大幅に楽になるといえよう。仮に、政党ラベルが機能するのであれば、端的に選挙制度改革をして、比例代表制にした方がよいということになるかもしれない。もっとも、現実には、政党ラベルがほとんど機能しないのが実情であるから、多数の候補者から政党名による絞込み検索をかけることもできない。
こう考えると、定数を抑制することで、候補者数を抑制し、過大な情報コストを課することを回避することはできよう。もっとも、話は単純ではない。定数30で候補者40人とすると40人分の情報を検索する必要がある。とはいえ、政党ラベルで10人に絞られれば、10人分の情報検索ですむ。仮に、定数6に限定し、候補者8人となれば、8人の情報検索ですむ。どちらがいいのかは、一概にはいえない。
さらにいえば、8人の中から政党ラベルで絞れば、2人分の情報検索でよいともいえる。しかし、このような選挙制度によって人為的に絞り込むと、問題も起きる。政党ラベル10人=A、B、C、D、E、F、G、H、I、Jの中で、個人レベルではA、Bが望ましいと思うかもしれない。しかし、自身の選挙区ではI、Jしか当該政党ラベルから立候補していないとする。とするならば、有権者は不本意な選択をせざるを得ない。また、同じ政党ラベルだからといって、候補者はクローンではないのである。個人間の選択も必要なのである。実際、当選してしまえば、全ての議員は「一国一城の主」として扱われるのが代表制度であるから、なおさらである。代表制度のもとでは、議員は個人として行動する以上、個人として選挙しなければ整合がつかないともいえる。
【つづく】