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2017.09.11 コンプライアンス

第2回 名刺でアピール! でも、こんな方法アリですか!?

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Q1について
 Q1は、名刺の体裁や形式についての設問です。
 Q1-1は、名刺の色・サイズについてです。公選法では名刺の色やサイズに規制はありません。したがって、設問のような名刺を作成することは可能です。もっとも、名刺のサイズが大きいと名刺入れに入らなかったり、持ちづらいなどデメリットも生じますので、実際に効果があるかは疑問です。
 Q1-2は、名刺の素材やデザインについてです。素材やデザインも検討3(1)で述べたとおり、基本的には自由ですので問題がないように思えます。
 しかし、名刺に目盛りを入れて定規として使用できるようにした場合、名刺にプラスアルファの機能を加えることになります。
 その場合、検討3(4)で述べたとおり、「定規」としての財産的価値あるものを相手方に渡すことになり、公選法の禁止する「寄附」(199条の2)に当たるおそれがあります。
 特に、あえて一般的な名刺よりも丈夫な素材を使用して目盛りを入れた名刺を作成したような場合は、普通の名刺に目盛りだけを入れたような場合と比較して、「定規としての利用」を想定している点でも、そのおそれは高くなるといえます。
 したがって、Q1-2の場合は、199条の2に違反するおそれがあります。


Q2について
 Q2は、名刺に記載する内容や使用方法についての設問です。
 Q2-1は、本人以外の者が写った写真を使用する場合についてです。
 名刺の記載内容で注意すべき点は、検討3(2)で述べたように、選挙運動に関わる記載があるかという点です。
 Q2-1の場合、有名な所属政党幹部との写真や、幼なじみの有名人、たくさんの人が写っている写真を使用するというものですが、いずれも選挙運動に関するものとはいえないので、問題はないと考えられます。
 政党幹部とのツーショットや有名人との写真などは、従来から政治活動ビラやポスターに使用されていることからも理解しやすいかと思います。
 ただ、念のために申し上げると、これは公選法上問題ないというにすぎませんので、写っている人に無許可で使用した場合、肖像権侵害などの問題が生じることがありますので注意してください。
 Q2-2は、候補者本人ではなく配偶者の名刺の裏に候補者本人の顔写真と氏名及び選挙スローガンを記載した場合です。
 選挙運動期間中ですので、名刺も「文書図画」に関する142条以下の規制との関係が問題となります。
 確かに、配偶者が、自身の名刺を配ること自体は選挙運動のためとはいえないようにも思われます。しかし、選挙運動期間中に、通常顔見知りであるはずの町内会の集まりで、裏面に候補者の顔写真、氏名、選挙スローガンが記載された名刺を配るということは、取りも直さず配偶者の選挙運動のために配っているものと評価できますので、このような名刺は142条で禁止された「文書図画」とされる可能性が高いと思われます。
 Q2-3の場合、「私」自身の選挙運動には関係がありません。しかし、候補者Aさんとの関係では選挙運動期間中ですので、142条以下の規制に服します。
 Aさんを応援するため名刺の裏にAさんの氏名と握手をしている写真を載せた場合、候補者Aさんの選挙運動のために使用する文書図画として、142条に違反すると考えられます。
 なお、この名刺はあくまで「私」の名刺であって、候補者Aさんを応援するつもりはなく、候補者Aさんの氏名と写真がたまたま載っているにすぎないと反論することも考えられます。
 しかし、その場合でも、名刺を配布する時期が候補者Aさんの選挙運動期間中であることや、配布する場所(選挙区内かどうか)や方法(例えば、支援者に無差別に配布するなど)によっては、142条の禁止を免れるものとして146条違反とされる可能性もあります。


Q3について
 Q3も、名刺の配布時期や方法についての設問です。
 Q3-1は、選挙運動期間中に名刺を渡しますが、街頭演説を聴いていた人に渡すので、自らの選挙区・選挙区域内の人に渡すと考えられます。
 この場合、これまで検討したものと同様、142条の禁止に服することになります。
 名刺は、同条の例外に当たらず、かつ支持や投票を得る選挙運動のために渡しているものですから、「選挙運動のために使用する文書図画」となり、142条違反となります。
 Q3-2は、選挙運動期間中ではありませんので、142条以下の規制は問題とならず、事前運動の禁止(129条)との関係で検討することになります。
 名刺のデザインを「選挙を意識したデザイン」に変更した場合、これが投票を呼びかけるものであったり、立候補の際に推薦を求めるものであったりする場合はもちろん、名前入りのたすきを掛けた写真や投票箱のイラストを使うなど、特定の選挙を意識させるような場合も、選挙運動と見られる可能性があります。
 また、地元のお祭りや会合で配布することについては、本人が通常の挨拶として個々に渡すのであれば問題ありませんが、手当たり次第に大量に配布するとか、本人でない者(秘書や支援者など)が配り歩くなどの行為がある場合には、名刺本来の利用方法とはいえず、「事前運動」と判断されるおそれがあります。
 Q3-3は、政治活動とは関係のない、自らが経営する会社の名刺を選挙区域内で渡す行為です。政治家個人であっても経済活動をすることはありますから、会社の名刺を使うことも当然あります。
 会社の業務として人と面会し、名刺交換をしたというのであれば、名刺の記載上も使用目的からも選挙運動のために使用されるものと見ることはできず、142条に違反するものとはいえません。
 これに対し、真意は142条の規制を免れて自身の支持・投票を得るために、形式的に会社の名刺を配るような場合は、146条の対象となり、同条違反となる可能性があります。  では、これをどうやって区別するかですが、配布の時期・方法・状況や渡す意図などを総合的に考慮せざるを得ず、明確な区別はできません。検討3(3)で、「リスクもあるためお勧めしません」と述べたのは、こうした判断基準が曖昧なことが理由です。


Q4について
 Q4は、いわゆる「プラスアルファ」についてです。
 Q4-1は、名刺を見せると割引や粗品などがもらえるサービスが受けられるというものです。これは、名刺に割引券又は金券としての機能を持たせることになります。
 したがって、当該名刺を渡した場合、もらった側はそのサービスを利用するしないにかかわらず、「割引を受ける権利」や「粗品をもらう権利」を受けることになりますから、「財産上の利益」を与えたものとして寄附の禁止(199条の2)に抵触し違法となります。
 Q4-2は、名刺自体にサービスは付いていませんが、飲食店の広告を載せるというものです。名刺の記載の問題ともいえますが、名刺に広告の機能をプラスアルファするものと考えることができます。
 広告を載せただけでは、掲載されたお店が何らかの財産上の利益を得たということは考えにくく、公選法上の寄附には当たらないと考えられます。また、飲食店の宣伝の記載は選挙運動にはつながりませんので、事前運動の禁止にも該当しません。
 したがって、支援者が経営している飲食店の宣伝を掲載したとしても、それだけでは公選法上の問題は原則として生じないと考えられます。
 ただし、これも程度問題ですが、当該名刺を大量に作成し、多数の後援者に送りつけたり、配り歩いたりして掲載店舗の宣伝を無償で行ったといえるような場合には、「財産上の利益」があるとして、寄附に該当するとされる可能性はあります。


まとめ

 前述のとおり、名刺は政治家にとって名前や顔を知ってもらうために不可欠なアイテムであり、広く利用されています。
 そのため、普段の政治活動等で頻繁かつ気軽に使える一方で、簡便ゆえ知らず知らずのうちに違法な名刺を作成し配布してしまうと、後で回収することは困難です。
 そこで、名刺の作成・配布等に当たっては、「記載内容」、「使用の時期・方法」、「プラスアルファ」について、作成・使用する前に慎重に検討し、後で「しまった」とならないよう注意が必要です。

この記事の著者

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