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2017.09.11 コンプライアンス

第2回 名刺でアピール! でも、こんな方法アリですか!?

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解説

〈設問で公選法上問題となる点〉
 検討1 「名刺」の位置付け
 検討2 名刺に関する公選法上の問題場面
 検討3 検討に当たってのチェックポイント

●検討1:「名刺」の位置付け
 「名刺」とは、「小形の紙に、姓名・住所・職業・身分などを印刷したもの。訪問・面会その他、人に接する場合に用いる」(『広辞苑〈第6版〉』)とされています。昨今、プラスチックなど紙以外の素材を使用した名刺も登場していますが、氏名や肩書、連絡先などを記載しているという名刺の基本的要素に変わりはありません。このような名刺について、公選法は特別の規定を置いていません。
 他方で、名刺は「文字若しくはこれに代わるべき符号又は象形を用いて物体の上に多少の永続性をもって記載された意識の表示」(総務省ホームページ)であるため、結局、公選法では「文書図画」の一種として扱われることになります。

●検討2:名刺に関する公選法上の問題場面
 検討1で述べたとおり、公選法上名刺は「文書図画」の一種として扱われるため、選挙運動期間中における選挙運動のために使用する文書図画の頒布又は掲示の制限(142条以下)の規制に服することになります。
 規制の内容については第1回(2017年7月10日)の記事を参照していただければと思いますが、概要は以下のとおりです。
 ① 選挙運動のために使用する文書図画は、142条以下で規定する例外を除き原則として頒布や掲示が禁止される。
 ② 文書図画の外形から見て明らかに選挙運動のために使用されているといえない場合であっても、142条や143条の規制を免れる行為として「公職の候補者の氏名若しくはシンボル・マーク、政党その他の政治団体の名称又は公職の候補者を推薦し、支持し若しくは反対する者の名を表示する文書図画」の頒布・掲示は禁止される(146条)。
 次に、選挙運動期間外における事前運動は、「文書図画」の頒布による場合も含まれます。したがって、名刺の使い方ないし配布の方法などによっては、事前運動の禁止(129条)に違反することもあります。
 さらに、名刺を挨拶状(年始挨拶、暑中見舞い等)として使用する場合は、選挙区域内の者に対して原則として挨拶状を出すことを禁止する規定(147条の2)に違反するおそれがあります。
 また、相手に渡す名刺によって、相手方が何らかの利益を得ることになる場合、利益の供与すなわち公選法上の「寄附」となる場合があります(199条の2等)。

●検討3:検討に当たってのチェックポイント
 上記のとおり、普段何げなく使っている名刺も、その文書性や利用方法から公選法の規制がかけられていることがお分かりいただけるかと思います。
 それでは、名刺を作成・使用するに当たって公選法との関係でどのようなことに気をつければよいのか、チェックポイント形式で考えてみたいと思います。

(1)体裁・形式……基本的に自由!
 名刺の体裁や形式については、すでに述べたとおり「名刺とは何か」を個別に定めた公選法の規定はありませんので、どのような形であっても自由です。
 したがって、長方形でなくとも、折りたたみ式や紙以外の素材を使用した名刺であっても問題ありません。
 ただし、後述のように、名刺の形や素材により、「名刺以外の機能」を持つ場合には注意が必要です。

(2)記載内容……選挙運動との関係に注意!
 名刺に何を書くのか、皆様それぞれ創意工夫を凝らされるところだと思います。質実剛健でシンプルな名刺から、顔写真や活動報告、スローガンが掲載されたものなど千差万別です。
 記載内容で公選法に関連して注意すべきは、選挙運動に関わる記載です。
 選挙運動に関わる記載(例えば、「◯◯市議会議員選挙立候補予定者」、「△△県の未来のために清き一票を!」など)がある名刺を配布すれば、それはそのまま選挙運動と評価され、選挙運動期間中は文書図画の頒布制限(142条)、選挙運動期間外の場合は事前運動の禁止(129条)違反の問題が生じます。
 なお、選挙運動期間中にあっては、選挙運動に関する記載がない場合であっても、配布・使用方法によっては146条に違反することがあります(詳細は(3)参照)。

(3)使用の時期・方法……時期や使い方でいきなりアウトに!
 名刺は、相手に自分の氏名や属性等を知らせるために使うことが一般的です。
 したがって、政治活動として、そのような通常の用途に使用するのであれば、公選法違反の問題は生じません。選挙運動期間外に名刺を渡しながら「次の選挙はよろしく」ということは事前運動の禁止(129条)に当たりますが、これは名刺が問題なのではなく、投票を呼びかけたことが問題なのです。
 ですから、皆様が普段行っている政治活動において、面会した相手と名刺交換等をしたり、街頭で握手を求められた際に名刺を渡すことに問題はありません。
 しかし、上記のような通常の用途に使用する場合であっても、選挙運動期間中に行うと、142条以下の文書図画の制限の適用があります。
 具体的には、選挙運動期間中は、選挙運動のために使用する文書図画は142条の例外として認められたもの(地方議会議員選挙では指定枚数のはがき、知事・市町村長の場合はこれに加えて選挙管理委員会に届け出たビラ)以外は配れず(142条1項4号〜7号)、名刺も例外ではありません。
 また、外形上選挙運動のためのものといえない場合でも、142条の規制を免れる行為としての文書図画の配布も禁止されます(146条)。
 名刺の記載に何ら選挙運動に関する記載がなくとも、選挙運動期間中に投票や支持を得るために配布すれば146条に抵触する場合もあるのです。
 法律家の立場からすれば、選挙運動期間中に選挙区域内で名刺を配布することはグレーであり、リスクもあるためお勧めしません(なお、選挙区の隣接市町村で頒布した場合も文書図画の頒布に当たるとの大審院(戦前の最高裁に相当)判決があります。個人的には疑問ですが、そういう判例があることは知っておいた方がよいと思います)。
 また、選挙運動期間外でも、名刺をビラ配りのようにばらまくとか、無差別にポストに投函したりすれば、態様や数量によっては事前運動(129条)と評価されてしまいます。

(4)名刺に「プラスアルファ」は気をつけましょう!
 名刺は、一般的に特別な財産的価値を持つものではありませんので、これを渡したからといって何かの「財産上の利益」を与えたとはいえません。しかし、名刺が金属製でペーパーナイフとして使えるとか、広げるとうちわや扇子として使えるようにつくってあるなど、本来の名刺以外の機能を持たせたような場合、その機能を有するものとしての価値がある限り、名刺を渡した相手方に「財産上の利益」を得させたことになり、公選法の禁ずる寄附(199条の2)に抵触するおそれがあります。
 また、名刺それ自体について、所持する者に利益を与える機能がある場合も同様といえます。過日話題になった、ある公職者の名刺を提示したら、割引サービスを受けることができるといったものは、名刺自体に割引券ないし金券的な性質を付与するもので、仮に名刺を受け取る者がそれを使わなかったとしても、名刺を渡すこと自体が受け取った者に「割引」という経済的利益、すなわち「寄附」があったといえます。
 反対に、プラスアルファが経済的利益を与えるものでない場合は、経済的利益を与えたことにはならず「寄附」とはなりません。例えば、自身の所属政党への入党を呼びかけたり、企業の広告を掲載した名刺は、それを渡すことで受け取った者に経済的利益を与えるわけではありませんので、公選法上の規制する「寄附」にはならないと考えられます。

 それでは、以上を踏まえて今回の設問を考えていきましょう。

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