2017.07.10 コンプライアンス
第1回 政策を伝えるために著書を配っても大丈夫!?
Q1-1
●争点1《寄附の禁止》について
本設問は選挙運動期間中の行為であるため、「私」はA市の市議会議員選挙の立候補者であり「公職の候補者等」に該当します。
また、設問は自身の著書をA市の有権者に配るというものですが、出版されているものを配布することは、「書籍」を「選挙区域内の有権者」に対して無償で「供与」することになりますから、まさに199条の2が規定する寄附の禁止に該当することになります。
もっとも、当該書籍の価格が無償であれば「財産上の利益」がないのでは? とも思われるところですが、通常、書籍を定価0円で出版することは考えにくい上、出版行為自体に一定の費用がかかることから、定価を0円と設定したとしても「書籍」自体に財産上の価値が肯定される可能性が高いと思われます。
したがって、本設問での「私」の行為は寄附の禁止に抵触し許されません。
●争点2《文書に関する制限》について
本設問では、立候補中の「私」が自身の政策を知ってもらう目的で著書を有権者に配布しようとしています。
地方(市)議会議員選挙において選挙運動期間中に頒布できるのは、一定枚数のはがきのみとされています(142条1項5号、6号。なお、地方議会議員選挙においては、従前選挙運動用ビラの配布は認められていませんでしたが、先般の公選法の一部改正により、平成31年3月1日以降に行われる都道府県又は市の議会の議員の選挙については認められることとなりました)。
他方、著書(書籍)が「文書図画」に当たることは明らかであり、有権者に配ろうとしていることからも、不特定又は多数人に配るという「頒布」にも該当します。
問題となるのは、自身の政策を知ってもらう目的で配布することが、「選挙運動のために使用する文書図画」といえるかどうかです。
確かに、選挙運動期間中に自己の政策を有権者に知らしめる行為は、支援者を増やして当該選挙での当選を目指して行われる選挙運動の面も有しているといえます。
しかし、自身が以前に選挙と関係なく執筆した著書は、外形的に見て明らかに選挙運動のために使用される文書とは認定し難く、142条の「選挙運動のために使用する文書図画」とは認められないと考えられます。
ただ、選挙運動期間中に自己の政策を知ってもらう趣旨で著書を配ることは、態様として宣伝のために無料で配布することは通常考えられませんし、意図も有権者の支持・自己の当選に向けた行為であって、著書の販促活動というより実質的には「選挙運動のため」と考えられ、146条1項に違反するものと考えられます。
●争点3《事前運動の禁止》について
本設問は選挙運動期間中の行為のため、事前運動の禁止に関する問題は生じません。
Q1-2
●争点1《寄附の禁止》について
本設問では、著書を配布せず単に宣伝するにすぎないので、財産上の利益は生じず、寄附の問題とはなりません。
●争点2《文書に関する制限》について
本設問では、街頭演説で「この本」と著書を示してアピールをしようとしています。
まず、書籍が「文書図画」に当たることは前記のとおりです。
次に、書籍を街頭演説中に掲げることは人に見えるように示すもので「掲示」に当たりますが、143条は、選挙運動期間中に掲示できるものを限定列挙しており(143条1項各号)、書籍はいずれにも当たりません。
問題はQ1−1と同じく、「選挙運動のために使用する文書図画」といえるかどうかです。この点についても、Q1−1と同様に、外形上はこれに当たらず、143条の適用は困難かと考えます。
しかし、アピールの場所や状況(選挙戦最中の街頭演説中であること)や目的からすれば、著書の宣伝の体裁をとっていたとしても、実質的には143条の禁止を免れる行為と認定される可能性が高いと考えられます。
●争点3《事前運動の禁止》について 本設問は選挙運動期間中の行為のため、事前運動の禁止に関する問題は生じません。