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2017.06.26 仕事術

記者会見から考える外見リスクマネジメント(上)

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広報コンサルタント/公共コミュニケーション学会理事 石川慶子

 記者会見は多数の記者を相手に説明するだけでなく、記者からの質問にも対応する場ですが、説明内容だけでなく、非言語コミュニケーションとしての外見、すなわちどう見えるのかを意識した準備が必要です。なぜ必要なのかを事例から考えてみましょう。

1 政治家考察の背景

 「記者会見の解説ができる専門家を探している」、「〇〇の記者会見はどうも腑(ふ)に落ちない」、「何が良くて何が悪いのか、どうすべきだったのか」、「外見も重要だと思うが、あの服装、あの態度で果たしていいのか」といったメディアからの解説依頼が昨年から急速に増加しました。
 どのように彼らは私を探すかというと、大抵は「ネットで検索をかけて探しました」との回答。このような解説依頼は『マスコミ対応緊急マニュアル~広報活動のプロフェッショナル~』(ダイヤモンド社、2004年)という本を私が出版して以来10年以上続いている現象ですが、年々依頼は増加し、2016年は30件近くになりました。
 良い記者会見はそのまま報道すれば終わりますが、不祥事は記者自身がそのまま報道することに飽き足らず、自分たちの心理も分析したいという欲求が高まってきています。特に2016年に取材に来た記者たちは一様に「他人事ではない。自分たちもいつ同じように批判される立場になるかもしれない。批判記事だけでなく教訓としての学びも書きたい」と語っていました。記者自身が自分事化して考えるようになってきたのは、新たな傾向といえるでしょう。
 報道関係者から依頼される記者会見分析の対象は、経営者、タレント、議員・政治家、スポーツ選手など様々ですが、今回は政治家を深く考察してみたいと思います。分かりやすさ重視で報道が多くなされた方を選びました。
 今回取り上げる議員は、女性では2014年から2015年にかけて釈明に追われた議員たち。小渕優子議員、松島みどり議員、中川郁子議員、片山さつき議員、上西小百合議員の6人とします。2015年4月に報道番組で女性議員の装いについて比較分析と解説を依頼されたことから、一般的関心が高いと判断しました。6人の議員は様々な装いで釈明会見をしていたため、外見リスクマネジメントという観点からは比較分析しやすいと考えました。
 男性については、経済再生担当大臣を無念な形で辞任せざるを得なくなりつつも、したたかな復帰をみせた甘利明議員、不倫批判で議員辞職をした宮崎謙介元議員、典型的な失敗のオンパレードで東京都知事を辞職した舛添要一前都知事を取り上げます。大手報道機関からの解説依頼が多かったことから、社会的関心が高いと判断しました。

2 女性政治家の釈明と外見

 小渕優子議員は、2014年9月3日に発足した第2次安倍内閣で経済産業大臣に就任しましたが、同年10月16日に発売された週刊誌で政治資金収支報告書に観劇費用2,600万円が未記載であると報じられ、政治資金規正法違反疑惑が持たれました。4日後の10月20日午前、「今の自分がしなければならないのは、自身の問題を調査すること」と述べ、大臣を辞任。政治資金は疑惑報道がされやすい内容ですが、調査する姿勢を見せることで乗り切るケースが多い中、4日後の大臣辞任は速い決断でした。ダメージを最小限にして次の機会を待つ方針であることが明らか。このときの外見は、服は紺色のスーツ、白のシンプルなインナー、アクセサリーも目立たない質素なネックレス。メイクも控えめでした。大臣辞任という重大時と質素な服装は言語・非言語のメッセージが一致していて好感が持てるといえます。
 同じ10月20日の午後は、法務大臣であった松島みどり議員がうちわ配布疑惑で大臣を辞任。うちわ配布は寄附行為であると民主党の蓮舫議員に追及されてのこと(翌年1月14日東京地検特捜部は不起訴)。辞任会見で着用していたのは真っ白のスーツ。しかも光沢感のある生地で華やかな雰囲気。通常、辞任会見で白はあり得ませんが、彼女からすると不本意であること、潔白というメッセージを服装で行ったとも見えます。特別なメッセージが込められていたとしても、光沢感だけは避けるべきでした。光沢感は、祝う気持ちや喜びを表現することになるからです。辞任という深刻な状況と服装がかみ合っていないと「何かズレた感覚の持ち主ではないか。国民感性とズレているのではないか」と見られるリスクが生じてしまいます。白ではなく、せめてグレーのスーツにしたらよかったといえます。
 中川郁子議員は、2015年3月5日に発売された週刊誌で門博文自民党議員と六本木の路上で接吻(せっぷん)している写真を報じられました。中川議員は夫を亡くしており、一方の門議員は妻帯者。両者ともに、酒席の後の行為で軽率であったことをわびるコメントを出しました。しかし、その後の委員会で、中川議員は入院中に禁煙病室で喫煙していたことを追及されて謝罪しました。このときの服装はグレーのジャケットに透け感のある白のインナー。白のインナーまではいいのですが、透け感がある点に脇の甘さが見えてしまいました。「男性にこびた服装、節操がない」と見られるリスクが生じてしまいます。白に限らず透け感のあるインナーはここぞという場面、特に自分が不利な立場に置かれている場合には避けた方が無難です。
 片山さつき議員は、2014年10月21日、参議院外交防衛委員会において政府側の答弁要領を持ち込んで審議に当たっていました。その行為が委員長として中立的ではないと批判され、審議がストップ。御嶽山について事実誤認の情報発信の後であったことも重なり、翌日の理事懇談会で謝罪することに。このときの外見はいつもと同じロングヘア、白のニット風ジャケットに黒の縁取り。ロングヘアは下を向くと顔が全部隠れてしまうため表情が見えません。「清潔感がない。反省の気持ちが足りない」と見られるリスクが生じてしまいます。批判されているときは、髪を束ねるなどして顔をしっかり見せると、潔さや覚悟、事実に向き合う姿勢、反省といった感情を表現することができます。
 上西小百合議員は、2015年3月13日、体調不良を理由として衆議院本会議を欠席しましたが、後に週刊誌に知人男性と旅行していたことを報じられました。これを受け、4月3日、橋下徹大阪維新の会代表同席の下で釈明の記者会見を開きました。上西議員はいつもと同じロングヘア、濃いメイク、シャネル(風)の派手なスーツ、胸元が広く開いたインナーでした。表情も時折笑みを見せるなど全くメディアトレーニングを行った形跡はありませんでした。釈明会見と不釣り合いな派手な外見に不快感を持った国民は多いのではないでしょうか。どのようにしたらよいのかはもうお分かりですね。全て反対のことをするのです。髪を束ねて顔を出す、メイクは薄めにナチュラルに、高級に見える服や派手な服は避け、胸元を開けすぎないことで反感を減らすことができるでしょう。

((下)は、2017年7月10日更新予定)

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