2017.06.12 仕事術
第7回 監査委員による行政監査、財政援助団体等監査は意味がない?
テーマ選定にリスクアプローチを
以上、行政監査や財政援助団体等監査の多面的成果についてご紹介してきたが、テーマ設定やチェック項目については、現状そのままで必ずしもいいわけではない。議選監査選択制を含む今回の改正地方自治法(平成29年6月2日成立)には、地方自治体の内部統制に関する方針の策定義務も盛り込まれている。この義務の対象は、現状では都道府県及び政令市のみとなっており、それ以外の市町村は努力義務にとどまっている。しかし、内部統制の考え方を監査についても取り入れていく必要性は、全国都市監査委員会も強調している。例えば、同委員会が、平成28年に改正した都市監査基準7条(監査等の実施)では、「監査委員は、監査等の対象に係るリスクを考慮して、効果的かつ効率的に監査等を実施しなければならない」とされ、「リスクの重要度については、必要に応じて内部統制の整備及び運用状況の有効性を評価した上で総合的に判断」することを定めた。
これまでのテーマ選定に当たっては、先ほども述べたとおり、調査の間隔、頻度がまず考慮された。また、担当部局が一部局に集中しないように配慮してきた。私が提案したかったあるテーマ案は、たまたま数年前に取り上げられたために、テーマとしてふさわしくないとされた。しかし、そのテーマが、行政にとって問題が発生するリスクが高いものであれば、間隔を置かずに再びテーマとすることは何ら問題ないはずだ。内部統制の考え方では、限られた監査資源を効率よく投入するために、対象事案のリスクをあらかじめ評価し、着手する対象を選定するリスクアプローチという手法が重要であるとされている。確かに、調査の間隔よりリスクを優先すべきだというのはもっともなことだ。私も、リスクアプローチという考え方をより深く理解していれば、引き下がらずに主張したのだが。行政監査のテーマ選定に当たっては、リスクの可能性が定期監査などでたまたま顕在化したテーマを対象としてきたのはすでに述べたとおりだ。しかし、内部統制の考え方からすれば、考えられるリスクを総ざらいで評価し、リスク評価を「見える化」して、リスクの高いテーマから取り組んでいく必要がある。これまでの手法は、議選監査委員や監査事務局の経験や勘に頼ってのテーマ選定であった。こうした手法も一概に否定すべきではないが、考えられるリスクの評価については、毎年とはいわないまでも、数年ごとに実施していく必要はありそうだ。私自身も、大事なテーマを見逃しているのではないかという不安に駆られたこともある。テーマだけではなく、調査項目についても、リスクアプローチは重要なようだ。確かに、漫然と調査項目を設定していては、リスクの管理は難しい。実際、数年前に実施したばかりのあるスポーツ団体が、昨年度、新聞紙上にも取り上げられるような重大なミスを犯した。しかし、そうしたミスをリスクとして認識して質問していた痕跡は、改めて確認したが見つけることはできなかった。今後は、行政の内部統制の体制整備とともに、監査委員会においても、万能ではないが、リスクアプローチの手法を取り入れていく必要はあるだろう。政令市以外の市町村では、内部統制に関する方針の策定は義務化されていないことは先ほど述べたとおりだが、自治体監査の充実と向上を願うなら、方針の策定を行うことは最低限必要であることはいうまでもない。