2017.03.10 公職選挙法
第2回 政治活動における寄附の禁止該当事例
【関連】
○公職の候補者等が役職員や構成員である会社・団体等が、公職の候補者等の氏名そのものを表示したり氏名を類推できる形で、政党などの政治団体やその支部以外に選挙区等内の者に対して寄附をすることはできません(公選法199条の3)。
・この規定は、名前や類推事項を表示する寄附について規制していますので、寄附自体を禁止しているものではありません。
○公職の候補者等本人以外の者が、本人の名義を使って選挙区等内の者に対して寄附をすることや寄附をするように勧誘・要求することは【例外】②③の場合以外禁止されます(公選法199条の2第2項、4項)。
○選挙区等内の者に対し、公職の候補者等に寄附をするよう勧誘・要求することは【例外】②③の場合以外禁止されます(公選法199条の2第3項)。
【事例の検討】
県会議員のAさんが以下の行為を行った場合はどうか。
ア 選挙区内の有権者に政治活動ビラとともに使い捨てカイロ1個を渡した。
イ 自分で所有するビルの一室を、地元に新たに支店をつくる会社に安く貸した。
ウ 地元選挙区の神社での餅まきで、購入した餅を参拝客に向かって投げた。
エ 党費を払っている党員にのみ配るカレンダーを、党員ではない事務所の来訪者に「今度あげるよ」と約束した。
オ 後援会旅行でAさん自身のデジカメで撮った写真のデータを参加者にコピーさせた。
カ 招待を受けた選挙区内の町内会の忘年会で、請求されていないのに会費を支払った。
キ 県会議員選挙の1か月前に自分が支部長を務める政党支部に10万円を寄附した。
ク 自分の選挙区内で行う県政報告会において、
① 公共交通機関のない地域の複数の来場者のためにバスをチャーターし、会場を往復した。
② お茶やビールを提供した。
③ ①の場合に、同時に新年会も開催した。
ケ 選挙区内の支援者の告別式に自ら出席し、
① 香典とともに線香を差し入れた。
② 香典として3万円を渡した。
コ Aさんが県の財政を憂慮し、自主的に議員報酬の一部を県に返還した。
アはまさに寄附の典型例です。使い捨てカイロ1個は価値としては高くありませんが、法律は金額について限定していない以上、実際に摘発されるかどうかはともかく、寄附になります。
イについては、会社の本社が選挙区等の外にあっても、支店が選挙区等内にある以上、寄附の禁止対象となります。
ウについては、皆様も経験があるかもしれません。餅まきの際に、購入した餅を参拝者に配ることは、「餅」という財産を無償で渡しているため寄附になるのです。費用は払わず神社側があらかじめ用意した餅を配るだけであれば、自分の財産を配るものではないので寄附には当たりません。
エは、党員でない場合は本来もらえないカレンダーですので、これを贈与することに加え、「寄附」の定義から約束するだけであっても寄附に当てはまります。
オは、印刷した写真を渡す場合はプリント代又は印画紙代をAさんが自己負担していることになるので寄附になりますが、データをコピーさせるだけであれば、コピーされたデータ自体をもって財産上の利益の供与・交付とまではいえないと思われます。
カについて、他の参加者に会費が設定されていても、本人に請求がされていない場合は債務がないため債務の履行とはいえず、会費名目の支払は寄附に当たります。
キは、候補者等が政党やその支部、政治団体等へ寄附することはできますが、自己の後援団体に対しては、選挙前の一定期間は寄附ができません。
クのうち、①については交通不便な地域のためのものであり、やむを得ない現物支給といえますので寄附に当たりませんが、他に交通機関があるような場合であれば、「必要やむを得ない」と言い難くなります。
クの②については、そのうち必要やむを得ない程度のお茶であれば可能ですが、ビールは饗応接待といえますので寄附に当たり禁止されます。
ク③ですが、バスのチャーター等の実費補償は「専ら政治上の主義又は施策を普及するために行う講習会・政治教育のための集会」の場合にのみ認められ、新年会を並行して行う場合には「専ら」の要件を満たさず許されません。
ケの告別式に自ら参列して香典を出すことは違法ですが、罰則がありません。ただし、香典のほかに物品の提供をした場合(①の場合)や、香典が相場より高額である場合(②の場合)など、通常一般の社会的儀礼を超える程度に至った場合は処罰されます。
コについては、自己の選挙区等を包括する都道府県や国に対する寄附も禁じられているところ、議員報酬の自主返還は義務がないにもかかわらず金銭を支払うもので「財産上の利益」の供与となり寄附に該当します。