2017.02.27 仕事術
第24回【最終回】 議会は考える機関。考えるために視察に行く
視察の成果を最大限活用するには
視察で得られた知見を最大限に活用するためには、議員自らが政策を実施することである。ところが、議会は執行権を持っていない。そのため議員が政策を実施する場合は、会社やNPO等を立ち上げて議員個人の活動として実施するしかない。これは少し違うような気がする。視察に行くのは、議員個人の活動を充実するためではないと思う。
一般的には、議会(定例会や委員会等)という公式の場で、議員は視察から得られた知見をもとに執行機関に質問や提案をすることにより、執行機関を動かしていくことになる。しかし、議会の質問や提案に対して、長をはじめ部長、課長等の執行部は「検討します」、「研究します」、「善処します」という答弁だけを繰り返し、いつまでも政策に着手しないことが少なくない。
また、答弁の中には「可及的速やかに……」との回答も多い。このような回答を得たため、すぐ実施してくれるのかと思うと、執行機関は全く動く気配がなかったりする。実は、「速やかに」は訓示的に用いられ、すぐに行わなくても義務違反とはならないという含意がある。しかも「可及的」が付いている。この意味は「できるだけ」である。そのため「可及的速やかに」は「できるだけやろうとは思っていたのですが、様々な事情があり、できませんでした。けれど、今後はできるかどうか検討していきます」というニュアンスがある。きつくいってしまうと、要は「やる気はないわけではないけれど、様々な事情から実施しません」と回答しているようなものである。
一方で「速やかに」に似た表現として「直ちに」や「遅滞なく」がある。しかし、意味は大きく異なる。「直ちに」は、理由はどうあれすぐに行わなければならない場合に用いられる。「遅滞なく」は、正当な理由、合理的な理由がない限りすぐに行わなければならないとされている。つまり「遅滞なく」と「直ちに」は、すぐに行わなければ義務違反となってしまう。そのため「直ちに」や「遅滞なく」という言葉を使った答弁はほとんどないと思う。
また話がそれてしまったため、元に戻そう。議員が視察に行き、様々な知見を得ても、執行機関が動いてくれなくては、政策として結実することはない。そこで強制的に執行機関を動かす手段がある。執行機関を動かす最大の武器は、議会が政策条例を提案することである。政策条例が成立すれば、その条例に基づいて何かしら施策や事業が実施されることになる。すなわち、政策条例の存在は自治体職員を強制的に動かす作用がある。
昨今では議員提案政策条例制定の潮流が強くなりつつある。ぜひ、議会(議員)は視察で得られた成果を活用して、積極的に政策条例の提案に取り組んでほしいと思う。政策条例の提案は、まさに議会の役割である政策立案機能を体現しているといえる。
視察で得た知見を鵜呑(うの)みにしない
視察に行くと、様々な知見が得られると思う。そこで注意しなくてはいけないことは、「鵜呑みにしない」ことである。鵜呑みには「物事の真意をよく理解せずに受け入れること」という意味がある。
筆者は、様々な自治体に行き、地域づくりの後方支援をしている。ある地域で成功したノウハウを別の地域に当てはめたとしても、必ず成功するというわけではない。地域性や住民の特性などが異なるため、他の自治体の成功事例がそのまま使えることは基本的にない。成功事例をもとに検討し、自分の自治体に合うように再構築しなくてはいけない。視察の成果も同様のことがいえる。視察から得られた知見は、そのままでは使えない。
視察に行き、知見を得たのならば、まずは「考える」ことが大切である。何度も何度も考えることが大切だと思う。様々な観点から考えていくことが求められる。むしろ、考えるきっかけをつくるために視察に行くと捉えてもよいだろう。議員の考える積み重ねが、結果として、議会としての行政監視機能や政策立案機能を強化していくことにつながる。筆者は、議会は考える機関だと思っている。
日本国憲法93条に「地方公共団体には、法律の定めるところにより、その議事機関として議会を設置する」とある。議会は「議事機関」と位置付けられている。日本国憲法の逐条解説を読むと、議事機関は「議事の内容を審議する機関」とある。現在、議会は議事の内容を審議し、実質的には議決する機関と捉えられる。日本国憲法が「議事機関」と明記し、「議決機関」と書かない点に、議事に重きを置いていると推測される(ちなみに、自民民主党の日本国憲法改正草案には、94条に議会が明記されている。そこには「地方自治体には、法律の定めるところにより、条例その他重要事項を議決する機関として、議会を設置する」となっている。つまり「議決機関」という位置付けである)。
93条の英文は「The local public entities shall establish assemblies as their deliberative organs, in accordance with law」である。この中で議事機関は「deliberative organs」となる。organsは機関と訳される。deliberativeには「審議する」、「熟慮の」、「熟議の」という意味がある。すなわち、議会は「熟慮」や「熟議」する機関であり、「考える」ことが基本にあると捉えられる。
熟慮とは「いろいろなことを考えに入れて、念入りに検討すること」ということである。熟議とは「十分に論議・相談をすること」である。この観点から、筆者は、「議会は、議員個人として熟慮して、議会全体として熟議する機関」と捉えている。
***
議員には積極的に視察に行っていただき、そして考えることを積み重ねてほしいと思う。その結果、議会の役割である行政監視機能と政策立案機能が強くなっていくことは間違いない。その延長線上には、住民の福祉の増進があると考えている。
24回にわたり、本連載にお付き合いいただき、ありがとうございました。