2016.12.26 議会事務局
第19回 理想の実現?~議員提出政策条例案~
議会事務局実務研究会 林敏之
自治体議員の皆様、こんにちは。今回は議員提出の政策条例案についてお届けします。今日、700を超える議会で制定されている議会基本条例には、議会としての政策形成について言及されていることが多く、緩やかではありますが、議員提出による政策条例の制定が各地で進んでいます。
議員が政策条例を提案するのはなぜ?

選挙の際に様々な公約を掲げて議員は議席を得ています。そして、その公約を果たすため、首長に政策や予算の提案書を提出したり、議会において一般質問等で政策を提案したりするなどの活動を行っています。しかし、最終的に実行するのは首長であり、いい政策を提案し続けても実行される保証はありません。一方、議員には地方自治法112条1項の規定により条例案を議会に提出する権限があります。首長が議員の提案する政策を実行しないのなら、条例を制定することで実行を迫るという手法がとれるのです。
以前から多かった議員提出の条例案としては、首長からの手数料等の値上げ提案に対し、いわゆる野党系の会派がそれを撤回するような条例案であり、否決されることが常でした。どうしてもとんがった主張の条例案は、議会の過半数の賛成を得ることは難しく、全国の自治体議会で可決されている条例は理念条例的なものがほとんどです。ただ、一度議員提出の政策条例が制定されると、その充実感から次の条例案を手がけてみたくなるようで、活発な議会とそうでない議会との間では温度差がかなりあるようです。
そもそも条例案を議員が提案する必要があるの?

「議員提出で条例案を出すのではなく、議員の意に沿うような条例案を首長に提出させるのが議員の仕事だ」という意見があります。「いい政策を提案するのが議員の仕事であり、議会開会前にしっかりと行う。それを受けて執行部が条例に仕上げ、議会で提案する」というやり方です。昔は「議場の裏にある小部屋で本当の政治が行われている」なんて話がまことしやかにうわさされたりしていました。しかしこのやり方は、「議員が何をしているのか分からない」、「議会で一言も発言がない議員がいる」などの批判を生みました。そしてその批判は「◯◯市議会は議員提案の政策条例が過去10年間で1本もない」という批判につながり、「議員提案の新規政策条例案がないこと=議会機能が麻痺(まひ)していることの象徴」のように騒ぎ立てられるようになりました。
議員は首長とは異なり、補助機関としての職員を有していません。そのため「現状の体制のままであれば、議員は首長提案の議案をきちんとチェックすることが一番大事であり、その時間を割いてまで無理に自ら条例案を提出する必要はない」という意見の識者もいます。首長の背後には数百人、数千人の専門の職員がついていますが、議員には数人から十数人程度の議会事務局職員しかいません。きちんとしたサポート体制がないまま、「議員提出の政策条例がない議会=無用な議会」という構図をつくり上げる論調には大きな疑問があります。首長提案の議案をしっかりと審査し、必要に応じて修正したり、既存の条例の一部改正案を提案したりすることも立派な政策提案です。これらは新規条例案をつくるのに比べはるかに少ない労力で行うことができ、かつ、きちんとした結果を生み出すことができます。議会としての政策提案というと、新規条例案の制定のみが取り上げられがちですが、上述のように、それぞれの議会に応じた方法があります。もちろん、新規の政策条例案の提出を否定するものではありません。首長提案の条例案はどうしても部や課単位でのものになりがちであり、地域全体を見渡した提案ができることなど、議員提出政策条例案の利点は多くあります。
なお、議会基本条例が制定されている場合、議会での政策形成をうたっていることがほとんどだと思います。新規の政策条例案の提出ありきと思われがちですが、議員間討議を活発にしたり、首長提案の議案を修正したりするなどの方法も政策形成を行っているといえるでしょう。「首長提案の議案は全て原案可決、質疑なし。議員提出の政策条例案もなし」なんてことになると、どこで政策形成をしたのか分かりません。住民から「条例違反」と訴えられかねませんので、ご注意を。