2016.11.25 仕事術
第21回 政策提案の実現性は財源の裏付けにかかっている
一般財団法人地域開発研究所 牧瀬稔
今回から数回は、らくらく視察力アップ講座の「補論」という位置付けとして、これまで指摘できなかった視察に関することを述べたい。今回は、視察を経て議員(議会)が提案(提言)した内容を執行機関に事業化してもらうための視点を紹介する。
政策提案には財源の裏付けが必要である
議員は議員活動(議会活動)の一環として視察に行く。貴重な時間を使って視察に行くのだから、得られた成果は住民の福祉の増進のために活用しなくてはもったいない。視察の成果を活用する手段は多々あると思う。その中で直接的な活用は、視察で得られた知見を生かして、執行機関に対して政策提案(政策提言)をすることである。
政策提案には大きく2つの視点がある。ひとつは執行機関に対し新しい事業や既存事業の補完・拡充などを提供する視点である。これは議会に求められる「政策立案機能」に入る。そして、もうひとつの視点は、現在実施している事業へのチェックの意味を込めた提案である。この場合は議会が持つべき「執行機関への監視機能」になる。政策立案機能か行政監視機能か、どちらの方向で活用するのかを念頭に置きながら視察を実施した方が、成果も明確になるだろう。今回は、前者の政策立案機能をサポートするための視察の視点につき言及する。
今日、人・物・金といった行政資源が縮小する傾向にある。一部の地方自治体を除き、多くの場合は、行政資源が右肩下がりとなっていく。そのような現状において、議員が執行機関に対して政策提案を行っても、なかなか実現に向けて動き出すことは難しい。よく見られるのは、議員からの政策提案を無下にできないため、例えば、既存事業の費用を一律10%ほど削減し、カットした費用を新しい事業に充てるパターンである。この場合、カットされた既存事業は、所期の目的を達成されずに終わってしまうことが多い。議員の提案に基づいて事業を実施することにより、議員の顔を立てたかもしれないが、結果的には、全体としてよい成果をもたらさないだろう。
議員が考えなくてはいけないことは、「行政資源が逓減する中、自分たちの政策提案をどうすれば実行してもらえるのか」ということである。視察で得られた成果を何でも提案すればよいという時代は終わりを迎えつつある。これからの時代は、縮小する行政資源のことも念頭に置きながら、政策提案をしなくてはいけない。
そこで議員が政策提案をする場合は、次の3つの視点を持って行えばよいと思う(このことは第9回で簡単に記している。今回はより具体的に言及する)。
第1に、すでに役割を終えたと思われる事業や時代に合致しなくなった事業の廃止を求める視点である。そして廃止になった事業の費用を、提案した新しい事業に充当するのである。今日では、必要とされなくなった事業が惰性的に実施されている場合が意外に多い。自治体職員が自らの判断で事業を廃止することは、自己否定につながりかねないため、どうしても廃止には後ろ向きになってしまう。そのため、選挙で選ばれたという正統性のある長や議員が「その事業を廃止したらどうか」と言ってくれるのを待っているケースも多いと思う。そこで、(長や)議員が必要ないと考える事業の廃止を求める。そして廃止した事業の財源で、議員が提案する政策を実施してもらうのである(「廃止・新規型」の政策開発(第20回参照))。
なお、しっかりと根拠を持って廃止を提案することはいうまでもない。視察の多くは、現在の政策を見にいくことが多い。しかし、今後は過去の政策を見にいくことも大切である。つまり、廃止した経緯を把握するために視察に行ってもよいだろう。
第2に、予算がかからない事業を提案するという視点である(ただし職員の人件費は除く)。まず考えられることは、ゼロ円事業の提案である。人件費以外に予算がかからない事業を提案していく。あるいは民間活力を利用し、民間に事業を実施してもらうことも一案である。地方自治体が持つ現場を民間に開放することにより、民間はテストマーケティングの意味を込めて、自治体の持ち出しなしで事業を実施してくれることがある。テストマーケティングとは「新製品を発売する際に発生するリスクを軽減するために、地域や期間などを限定して、その製品を試験販売し消費者の反応を実験すること」と定義できる。
民間では、公的市場に参入するか否かを検討していることがある。そのような民間は、特定の自治体を対象としてテスト的に事業を実施したい意向がある。このような意向を持つ民間と組んで事業を実施すれば、地方自治体の持ち出しは最小限ですむだろう。なお、この場合は、議員が民間を紹介すれば、なおよいだろう(もちろん公平性の観点で望ましくない場合もあるため、手順はしっかり踏まなくてはいけない)。
第3に、地方自治体がお金を稼ぐ手段を提起し、稼いだお金を財源として議員が提案した事業を実施してもらうという視点である。すでに本連載で紹介しているが、「お金を稼ぐ手段」のひとつが税外収入である。税外収入とは「税金によらない収入」である。具体的には、ふるさと納税制度や命名権(ネーミングライツ)、クラウドファンディングなどが該当する。これらの「お金を稼ぐ手段」とセットで事業の提案をしていくことも考えられる(国等の交付金や補助金等の獲得も、この手段に入ると思われる)。
繰り返すが、これからの地方自治体は行政資源が縮小していく時代を迎える。そのような中、視察で得た知見を生かして政策提案をし、その政策を実行してもらうためには、財源の裏付けが必要である。この視点を持ちながら、政策提案をしていく必要があるだろう。
なお、財源も提示し、そのほか様々な誘引をしても執行機関が動かない場合は、最後の手段として条例の提案がある。大きな権能として議会は条例の提案権を持っている(しかも条例の議決権もある)。執行機関の動きが鈍い場合は、条例を提案し制定することにより、強制的に動かしていくことも一案である。