2016.11.10 仕事術
第4回 「専門知」と「実践知」の相互循環プロセスを通じて、政策の質を高めよう―「議会・行政主導の協働」から「民間主導の協働」へ―
4.8 政策の検証結果も貴重な知であり、蓄積していくことが重要
政策評価が求められるのは、行政の説明責任という側面もあるが、何より「政策の仮説性」による。つまり、政策は「こうすれば、ああなるであろう」という仮説であるから、「こうすれば、ああなったのか」という仮説の検証が不可欠なのである。それは単にある政策の是非を評価するためだけのものではなく、その後の政策を検討していく上で非常に貴重な情報となる。「こうすれば、ああなったのか」、「想定の結果が得られなかったのはなぜなのか」という「知」を蓄積することが政策の質を高めていくのである。政策の失敗も、それを組織内・地域内で共有できる「知」に昇華すれば、必ずしも悪いものではない。そもそも、100%成功する政策立案は無理なのだから、失敗したことそれ自体を悪と捉えてはならない。議会も、行政側の政策の失敗を単に批判するだけでなく、このような視点から政策の知を蓄積していくような取組を推進していく必要がある。
4.9 テクノロジーが積極的に活用される環境をつくること
そして、何より重要なのは、以上の取組を行うに当たって、積極的にデータや各種アプリケーションなどのテクノロジーを活用していくということである。もちろん、テクノロジーだけで全てが解決されるわけではない。最終的には、地域に暮らす市民の意思、つまり自治力にかかっているが、テクノロジーは様々な点でその自治力をサポートしてくれるものである。例えば、テクノロジーは政策に対する意見を投稿したり、地域の課題を行政側に伝えることも容易にしてくれる。また、データも多様な形で共有することができる。詳細なデータを大量に共有することもできるし、同時に、可視化・ビジュアライゼーションの技術により、大量なデータを分かりやすく抽象化した形で共有することも可能である。RESASのように、市民自らがデータを扱うツールを提供することもできる。このように、テクノロジーは市民が政策に関わる機会を様々に提供しうるものであり、各地域の民主主義のあり方に応じて、適切にテクノロジーを用いてほしい。その際、議会・議員は、テクノロジーに対する理解を深めるとともに、民間企業や市民などとのネットワークを構築し、テクノロジーが積極的に活用される環境をつくるという重要な役割を担う必要がある。
5 まとめ:「議会・行政主導の協働」から「民間主導の協働」へ
これまでの連載で整理したように、政策立案におけるデータ活用は政策の質を高めうるものであるし、立案した政策をより自信を持って推進することができる。しかし、それは、議員個人若しくは行政職員個人で政策を立案できるようになるということを必ずしも意味しない。地域には、データには現れてこない課題やそれに対する解決策が埋もれている。それは地域に暮らす人々の中にしかない。ある課題認識や政策案は、多様な人々の目にさらされ、議論されてこそ、その確からしさが高まる。
その意味で、Open GovernmentやOpen Policy Makingは、ある政策に関する知やデータを活用する知としての「専門知」だけでなく、地域全体として政策を考え議論していく知、いわば協働の知・政治の知としての「実践知」を必要としている。そして、これらは相互補完関係にある。議会・行政だけではなく、地域全体として政策を考えるプロセスはまさに「実践知」を蓄積していくが、その実践的プロセスの中で明らかになった情報は、新たなエビデンスとして政策に関する「専門知」を補強していく。同時に、ある政策に関する知やデータを活用する知としての「専門知」は、地域の課題や政策を考えるきっかけとなり、その意味で「実践知」を蓄積しうる。このように「専門知」と「実践知」は、片方がもう一方の動きを促進するメディアになっているという関係にある。議会には、第一義的には地域の政策の最終意思決定権者としての役割があるが、それだけでは十分ではない。「専門知」と「実践知」の相互循環を生み出すような潤滑油・コーディネーターとしての役割が求められている。
Open Policy Makingが目指すところは、政策の質の向上にとどまらない。最終的には、自治の質を高めていくことを目指すものである。20世紀の市民参加・協働は、行政が市民に対して「市民参加をさせる」という側面が少なくなかったように思う。それは、「行政への市民参加」であり「行政主導の協働」であったといえるが、21世紀は「市民・民間への行政参加」、「民間主導の協働」に変わらなければならない。これに気づいている地域は、すでに成果を残している。
(1) 宮崎秀紀「地域計画情報分析システム(PIAS)」日本オペレーションズ・リサーチ学会機関誌Vol.27 No.5(1982年)。
(2) NPO法人公共政策研究所の「全国の自治基本条例一覧」(http://koukyou-seisaku.com/policy3.html)による。なお、沼田らによれば、2014年4月1日時点では、「全国で314の自治体(全団体の約18%)」が制定している(沼田良=安藤愛「自治基本条例の現段階と可能性(上)」自治総研通巻448号(2016年)。
(3) 自治体議会改革フォーラムによれば、議会基本条例は700議会を超える議会で制定されている。
(4) http://www.town.miyashiro.saitama.jp/WWW/wwwpr.nsf/0/0d3563152410c5ab49257d5e000601e6/$FILE/%E5%B8%82%E6%B0%91%E4%BC%9A%E8%AD%B0%EF%BC%88%E8%AA%B2%E9%A1%8C1%EF%BC%89.pdf
(5) https://www.gov.uk/guidance/open-policy-making-toolkit/getting-started-with-open-policy-making
(6) このあたりの詳細については、拙稿「ファジーなオープンガバメント―曖昧さ・余白が生み出す市民自治―(行政&情報システム)」を参照いただきたい(http://kedamatti.hatenablog.jp/entry/2016/06/fuzzy-open-government)。
(7) 総務省による定義(http://www.soumu.go.jp/menu_seisaku/ictseisaku/ictriyou/opendata/opendata01.html)。
(8) 例えば飯田市議会など(https://www.city.iida.lg.jp/site/assembly/list195-592.html)。