2016.11.10 仕事術
第4回 「専門知」と「実践知」の相互循環プロセスを通じて、政策の質を高めよう―「議会・行政主導の協働」から「民間主導の協働」へ―
4 Open Policy Makingを進める上での議会の役割・振る舞い方
では、Open Policy Makingを進めていくために、議会は何をすべきであり、どのように振る舞うべきか。いくつかの観点で議会の役割・振る舞い方を整理してみたい。
4.1 政策をつくる前の心構え
まず、政策をつくる前の心構えとして、各自の判断に自信を持ちつつも、それを過信しないことが重要である。つまり、自分の認識・判断に対して謙虚であることである。これが政策立案の要諦である。第1回の記事でも書いたように、政策は仮説であり、常に間違いうる可能性はある。あるタイミングで行われる判断は全て仮の判断であることを認識しなければならない。
4.2 データのみならず、より広く、エビデンスをもとにした政策立案を
政策立案を進める上で、データを活用することはもちろん重要なことであるが、まちを歩いたり、市民と話をしたり、実際に現場を見にいくことも重要である。データだけを活用すればよいというものではない。データはある事象を抽象化したものであり、ある事象に関する情報が全て表現されているわけではない。実際の事象を直接確認することで、データと事象の間のズレを確認できる可能性もあるし、また、データを解釈するヒントを得ることもできる。データだけにとらわれず、広くエビデンス(事実)に基づいて政策を考えていくということが重要である。
4.3 地域全体としての政策立案を
ただ、エビデンスに基づく議論が重要だとしても、議員個人では多様な課題や住民ニーズを十分に把握することはできない。だからこそ、委員会や本会議など、議会全体としての政策立案が必要なのであるし、さらには、地域全体としての政策立案が必要なのである。そもそも政策は科学的・客観的に導かれるものではなく、様々な思惑から生まれる、まさにその意味で政治的なものである。だからこそ、多くの人たちとの対話・議論を重ねて、課題認識・政策をより適切なものにしていく必要がある。
4.4 市民との関係・コミュニティをデザインする役割
そして、地域全体としての政策立案を行っていくためには、市民との関係を実質的な対話が行われる関係にデザインしていくことが不可欠であるが、このことは、Open GovernmentやOpen Policy Makingを実現していく上で、議会・議員が行うべき非常に重要な役割である。具体的には、「市民が議会の政策立案に関わる場を構築すること」、「民間による政策論議が活性化するような場づくり・仕組みづくりを行うこと」、「民間のネットワークづくりをサポートすること」などいくつかのアプローチが考えられるが、政策立案をコーディネートしていく役割を担い、市民の多様な参加を促していく必要がある。
4.5 市民が活動する場に出ていくこと:「議会・行政主導の協働」から「民間主導の協働」へ
同時に、民間・市民が活動する場に積極的に出ていくことも重要である。市民と議会の意見交換の場である「議会報告会」に関して、参加者が集まらないことが課題として指摘されることもあるが、議会が企画する場に市民を呼ぶという形は対話・参加のひとつの手段でしかない。参加や協働を進めたいのであれば、議会や行政が市民・民間の場に出ていき、そこで対話をしていくことも重要である。例えば、Code for Xは前述のようにデータやアプリケーションを活用して地域課題の解決を目指す市民グループであるが、そこに議員や行政職員が参加して、市民とともに地域の課題を検討するようなケースもある。議員自らそのような場に参加することは、市民との関係・コミュニティをデザインしていくことにもつながる。
4.6 各種の情報をオープンにしていくこと
地域での政策論議を活性化させていくためには、各種の情報を積極的に公開していくことが重要である。行政側の情報はもちろんのこと、議会自身も、議決結果だけでなく、政策立案プロセスに関する情報を予定も含めて積極的に公開していくことが望ましい。公開に当たっては、「機械判読に適したデータ形式で、二次利用が可能な利用ルールで公開されたデータ」(7)を意味するオープンデータ形式で公開することが望ましいが、必ずしもそれにこだわる必要はない。まずは、どのような形式であれ、公開すること自体に価値がある。このような中での議会の役割は、行政側による情報の公開を促していくような働きかけと、議会自身の情報を公開していくことである。併せて、議員個人としての考えも積極的に公開していくことも重要である。
4.7 議会としての政策評価・地域としての政策評価
政策評価は、まず、政策・事業を推進する行政自ら行うべきものであるが、行政の監視機関であり、予算を議決した議会も行うべきものである。実際にいくつかの議会では、行政側が行った政策評価をもとに、二次的な政策評価を行うケースもある(8)。しかしながら、そこで行われているのは、必ずしもデータを活用した客観的な分析ではなく、感覚的な分析にとどまっているものも多い。データに基づいた評価を行っていく必要がある。その際、①ある単一のKPI(重要業績評価指標)が想定目標を達成したかどうかということだけではなく、②目的―手段の関係において「手段の妥当性」をデータに基づいて検証する必要がある。
行政がまずエビデンスに基づいて政策評価を行い、次に、議会が行政の政策評価結果をエビデンスに基づいて検証していく。さらには、それを市民が同じくエビデンスに基づいて検証していくというサイクルが循環していくことで、地域全体としての政策評価の質が高まっていく。