2016.09.26 予算・決算
第49回 決算審議に係る議会の資料要求
明治大学政治経済学部講師/株式会社地方議会総合研究所所長 廣瀬和彦
決算審議に係る議会の資料要求
A議会は決算審議において議員全員を構成員とする決算特別委員会を設置し、審査に当たっているが、不納欠損処分に係る資料及び長の交際費、さらに全職員の諸手当額に対し議員より詳細な資料の提出と説明が長に対して求められた。この場合、長は当該要求に法的に応える必要があるのか。
決算とは、一会計年度内の予算執行の結果を確定的計数で表示するものであり、地方公共団体において各会計ごとに歳入歳出予算について調製される。
決算の役割は、地方公共団体における予算執行の実績を計数的に明らかにし、予算制度の適切な運営を諮り将来の財政運営の資料とすることにある。
決算は議会の認定に付すことが義務付けられており(地方自治法96条1項3号)、議会の決算に対する認定とは議会が決算の内容を審議し、予算の執行が適法・適正に行われたことを確認する行為をいう。つまり、予算の執行結果の正当性を議会が認める行為であるといえる。
そして、議会の決算認定は長に対し政治的・道義的な責任を解除するものであり、法的な責任までを解除するものではないとされている。
なお、長は議会の認定に付された決算の要領を住民に公表しなければならない(地方自治法233条6項)が、要領には何ら具体的な基準がないため、各地方公共団体において適宜判断すればよい。
また、長から提出された決算に対する議会の認定の期限については、特に制約はない。
長は決算を議会の認定に付するに当たっては、決算に係る会計年度における主要な施策の成果を説明する書類その他政令で定める書類を併せて提出しなければならない(地方自治法233条5項・地方自治法施行令166条)。
決算に係る会計年度における主要な施策の成果を説明する書類とは、決算の実績を具体的に明らかにする書類であれば足り、その具体的表示方法や主要な施策の判断も長の判断による。
政令で定める書類とは、①歳入歳出決算事項別明細書、②実質収支に関する調書、③財産に関する調書である。
また、長は毎年度、前年度の決算の提出を受けた後、速やかに健全化判断比率及び資金不足比率並びにそれらの算定の基礎となる事項を記載した書類を監査委員の審査に付し、その意見を付けて当該健全化判断比率及び資金不足比率を議会に報告し、かつ公表することが義務付けられている(地方公共団体の財政の健全化に関する法律3条1項)。
なお、公表した健全化判断比率及び資金不足比率を速やかに都道府県及び指定都市の長にあっては総務大臣に、指定都市を除く市町村及び特別区の長にあっては都道府県知事に報告しなければならないこととされている(地方公共団体の財政の健全化に関する法律3条3項)。
これらを踏まえ、本問について考えると、不納欠損処分に係る資料及び長の交際費、さらに全職員の諸手当額についての資料は、一般的に地方自治法施行令166条における書類に含まれていない。そのため長が自主的に提出するなら別であるが、一般的に決算審議に当たり議会へ提出していない資料であると考えられる。
この場合に、委員会の審査においてこれらの資料要求があった場合の取扱いが問題となる。資料要求の形態として3つに分類して考える必要がある。すなわち、①議員個人からの資料及び説明要求、②何ら特別な権限が付与されていない委員会における一般的な資料及び説明を求める議決による要求、③本会議より地方自治法98条1項による検閲検査権又は地方自治法100条に基づく調査権(100条調査権)を付与された委員会の当該権限による資料及び説明の要求である。
①及び②の場合により資料又は説明要求されたとしても、法的に執行機関はこれらの資料及び説明要求に応える義務を負わないものであるといえる。
しかし、③の地方自治法98条1項に基づく検閲検査権又は100条調査権を本会議において委員会に委任した場合に、これらの権限に基づき委員会が資料の閲覧要求又は記録の提出を求めた場合、行政実例昭和44年12月10日のとおり長は法的に提出する義務を負い、さらに委員会に対し説明する義務を負うものと考えられる。
◯議会の検査権と秘密事項の取扱い(行政実例昭和44.12.10)
問 地方自治法第98条第1項の議会の検査権を委任された決算特別委員会が、昭和43年度一般会計の決算審査の際、理事者が行なった不納欠損処分の個人別、税別、年度別の資料要求を行なったところ、理事者側は地方税法第22条の規定に抵触するとして提出を拒んだので、次の点を質したい。
1 上記の場合に滞納者又は不納欠損処分対象者の資料を要求できるか。
2 たとえば、監査委員から出された意見書において、不納欠損処分の中に担税力があると思われるものが含まれていると指摘されている場合に、地方自治法第100条の調査権を議決し、滞納者並びに不納欠損処分者の徴収原簿及び課税基礎簿、滞納整理簿を検査できるか。
答 1、2とも一般的にはお見込みのとおり。
ただし提出された所問の書類、資料の取扱いについては、納税者の利益を不当に損うことのないよう、秘密会において審議する等適切な配慮をすることが望ましい。