2016.08.25 仕事術
第18回 視察で得られた知見を発信する
ウィンザー効果
マーケティンングには「ウィンザー効果」(Windsor Effect)という概念がある。ウィンザー効果の定義は、「第三者(他者)を介した情報、うわさ話の方が、当事者が直接伝えるよりも影響が大きくなる心理効果」である。筆者はウィンザー効果の特徴を定量的に、かつ明確に把握できたわけではない。しかし、筆者の経験からいえることは、ウィンザー効果の利点は不特定多数に働きかけることができることであると考えている(不特定多数とはサイレントマジョリティーも該当する)。
ちなみに、ウィンザー効果の語源はミステリー小説のセリフに由来しているといわれている。アーリーン・ロマノネスのミステリー小説である『伯爵夫人はスパイ』の中でウィンザー夫人が、「第三者の褒め言葉がどんなときにも一番効果があるのよ、忘れないでね」といったことから、この夫人の名前にちなんで名付けられたといわれている。このウィンザー効果は「口コミ効果」とも称されることがある。
視察した知見を政策反映性や政策実現性につなげたいのならば、このウィンザー効果を念頭に置きながら進める必要がある。視察した成果を単に流すのではなく、「どのように流したら、第三者が効果的に情報を伝達してくれるか」や「この人に情報を提供すると、うまく拡散してくれるだろう」などを考えて発信した方がよいだろう。特にマスコミという第三者を活用することにより、政策反映性や政策実現性に続く「流れ」をつくり出すことができる。
筆者は、実施したアンケート調査などは、必ず結果をまとめてホームページで公開している。また過去には、アンケート調査の結果をまとめて、新聞社に情報提供していた。すると数紙が関心を持ち記事になったこともある(一面に大きく取り上げられたこともある)。さらに視察やヒアリング調査に関しては、「これはぜひ知ってもらいたい」という内容がある場合は、マスコミに積極的に情報提供している。その結果、テレビ番組で取り上げられたこともあった。この流れを受けて、政策が実現した経験もある。
これからの時代は、情報は単に流すだけではいけない。視察の成果を政策反映性や政策実現性に結びつけるためには、ウィンザー効果を念頭に置きながら、視察報告書(視察した事実)の存在を拡散していかなくてはいけないだろう。
この視点で考えると、すでに本連載において何度か指摘しているが、アウトプット(政策提言)を前提としたインプット(視察)ということになる。視察は政策提言が伴ってこそ意味がある。政策提言を念頭に置き、視察先団体の選定や質問項目の決定、視察報告書の書き方に加え、得られた知見の効果的な発信方法といった細則を決めていくことになるだろう。
自治体広報と民間広告の違い
話はそれるかもしれないが、情報を伝える概念として「広報」と「広告」がある。それぞれの違いを確認したい。辞書を見ると、広報とは「官公庁・企業・各種団体などが、施策や業務内容などを広く一般の人に知らせること」とある。一方で、広告とは「商業上の目的で、商品やサービス、事業などの情報を積極的に世間に広く宣伝すること」とある。
自治体にとって広報といった場合は、対象層が幅広い(非限定)傾向がある。一方で民間企業における広告といった場合は、対象層が限定される。ここでは議論を明確にするため、「自治体広報」と「民間広告」として使い分ける。
自治体広報と民間広告の目的は異なる。自治体広報は、原則として全ての住民に情報を伝えていくことに主眼が置かれる。一方で、民間広告は、財(商品)やサービスの情報を消費者に伝え、購入してもらうことに重点が置かれる。つまり、消費行動を促すような仕組みや仕掛けを入れておくのが民間広告である。
また、成果も違ってくる。一般的に自治体広報は明確な成果は求められない。ここで「成果は求められない」と記述すると、担当者に怒られてしまうかもしれない。しかし実際は、民間広告と比較すると、それほど成果は求められていない現状がある。一方で、民間広告は、売上げに直結しないと評価されない。どんなに広告を展開しても、売上げが伸びなければゼロ評価である。
視察報告書は、広報か広告かの立ち位置を明確にする必要があるだろう。それにより書き方や発信する手段も異なってくる。ただし、筆者は、これからの時代は広報から広告への転換が必要と考えている(だからこそ、昨今では自治体でシティプロモーションがはやっていると理解している)。繰り返すが、広報とは「広く一般の人に知らせること」という意味がある。これからは単に知らせるだけでは意味がない。具体的には対象者を限定し、何かを周知することが求められるだろう。そして視察から得られた知見も、広告という思考が重要になってくると思う。
対象者の理解を促進するには、KISSの法則が有効である。KISSとは「Keep It Simple, Stupid.」の略語で、和訳すれば「短く完結に」や「構造をできるだけ簡単に」となる。単純明快であればあるほど、内容が把握しやすく、理解されやすい。KISSの法則は様々な分野に活用されている。ホームページのサイトデザインやSEO対策(Search Engine Optimization(検索エンジン最適化))でも用いられている。
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筆者は、視察で得られた知見をブログに記している(駄文が多く恐縮である……)。特に脈絡はないのだが、得られた知見をブログで公開していくと、たまに反応があったりする。その経験から実感することは、情報の発信と受信は表裏一体ということである。しばしば指摘されることであるが、情報を発信しているところに情報も集まってくることを実感している。その意味では、発信力に加えて受信力も強化していかなくてはいけないだろう(筆者自身、まだまだと実感している)。
繰り返すが、発信力を高めるためには、受信力を強めなくてはいけない。伝えるという発信力だけを意識するのではなく、受信力も常に認識しなくてはいけない。そして受信力を高めるためには、何ごとにも関心を持つ心構えが大切と実感している。