2016.07.25 議会事務局
第14回 議長というお仕事
議会事務局実務研究会 大島俊也
自治体議員の皆様、こんにちは。第14回目の今回は、議会の代表である「議長」についてです。どんな議会でも1人しかいない議長、自治体議会の知識がない方でも存在だけは知っている議長、そんな議長についての疑問点を取り上げてみます。
議長の仕事って、何ですか?

地方自治法104条には「議長は、議場の秩序を保持し、議事を整理し、議会の事務を統理し、議会を代表する」と規定されています。実務的には、議長の主な仕事は、①本会議の進行、②議会内の調整、③各種行事への出席、だといえるでしょう。
①本会議の進行は、いわば議長のメインステージ。本会議場で議事を進行し、ときに議員や傍聴者に注意したりします。何事もなければ法律や規則で決められているとおり淡々と進めるだけですが、いざトラブルが生じると大問題に発展しかねず最も重要な仕事です。
②議会内の調整は、地方政治の真骨頂。本会議を適切に進めるためにどんな手続を踏んでいくか検討したり、会期外に発生した案件の処理を各会派と調整したり、あまり目立って見えてこないこんな仕事を、どうバランスよくスムースに行うかで議会が存在意義を発揮できるかにつながっていきます。
③各種行事への出席は、議会の代表として主要な行事に参加して挨拶をしたりすることです。おそらく住民が最も議長を目にする機会かもしれません。
ところで、首長は執行機関の長として自ら決定・執行できますが、議長は合議体である議会の意思を自分だけでは決定できず、議事整理などの範囲を超えては同僚議員に命令もできません。皆のリーダーでありながら対等の仲間でもある、部活の部長のようなものでしょうか。単純な強制力ではない能力で、いかに個性あふれる議員の面々をまとめ上げていくかが議長の力量の見せどころです。
議長は、どうやって決めるの?

地方自治法103条に基づき、議会の選挙で選びます。選挙だからバリバリの決戦投票かというと、実態としては全会一致で決まることが多いようです。
議会には政治的立場が異なる様々な会派の議員がいるのに、なぜ全会一致になるのでしょうか。議会の会派構成によって、どの会派の議員が議長になるかはおのずと決まってくるからです。最大会派から常に議長を出すところもあれば、多くの所属議員を擁する複数の会派が4年の任期内に持回りで議長を出すところもあります。普通は少数会派から議長を出そうとしても、選挙で負けてしまいますから実現は困難です。
では、議長を出す会派内で誰を議長とするか、どう決めるのでしょうか。これは主に当選回数や年齢が基準になります。議員同士の関係は得票数でなく当選回数などで決まるので、トップ当選の若手議員が最大会派にいても、その議員が議長になることはまずありません。議長には、議会運営に関する知識や経験、バランスある調整能力などが求められます。お飾りの名誉職ではなく自治体の重要事項の決定を左右する大切な仕事ですから、当選回数や年齢が上なら誰でも議長になるわけでもありません。
本会議場では、用意されている次第を読めばいいの?

本会議場で一段高い場所にある議長席に座り、厳かに会議を進行していくのが、多くの人がイメージする議長の姿でしょう。たいてい手元の紙(次第といいます)を読んでいるように見えますし、実際、あの次第をきちんと準備するのが議会事務局の仕事です。議会の約束事を守り政治的配慮もした言葉遣いを事前に職員が検討し、議長と相談の上で次第をつくります。本会議当日に議長は用意された次第を淡々と読んでいくのが基本です。
ただ、「次第を読む」としても、「読むだけ」が議長の仕事ではありません。「読むだけ」なら、滑舌のいい美声の持ち主を連れてきた方が安上がりです。アナウンサーがニュース原稿を読むだけの存在ではないのと同様に、議長も本会議という重要な場で起こり得る様々な事態を考えつつ次第を読む存在です。次第はあくまで予測でつくったものでしかないので、想定外のことは、その場で対処しなければなりません。一般質問で通告と違う質問をしたり、答弁が漏れたり、他の議員や傍聴者が騒いだり、いろいろなことがあります。事務局もそのたびに議長に声をかけたり、緊急対応用の次第を渡したりしますが、臨機応変な対応をするのには議長が待ちの姿勢だけではうまくいきません。優れた議長は、眠気を催しそうな本会議でも決して注意を怠らず、いざというときに議会事務局も舌を巻くような見事な議事進行をしてみせてくれるものです。
ちなみに、議会を舞台にした古い映画「スミス都へ行く」では、主人公の議員の言動によって紛糾する本会議を冷静に仕切る議長が登場します。こんな映画が約80年前につくられてアカデミー賞にノミネートされているとは、さすが議会政治の国アメリカです。