2016.07.11 選挙
【フォーカス!】候補者選びは難航が必至~人気投票はやめて実力者を
国と地方の今。明日の議会に直結する、注目の政策をピックアップして解説します。
候補者選びは難航が必至~人気投票はやめて実力者を
舛添要一東京都知事が6月21日付で辞職した。任期はわずか2年4カ月だった。前知事の猪瀬直樹氏に続いて2代続けて首都の顔を「政治とカネ」の問題で失う羽目となった。一方、その後継者(7月3日現在)は、自民党の元防衛相である小池百合子衆院議員が立候補を表明しているが、7月10日投開票の参院選をにらんで、自民党も民進党も絞り切れていないのが実情だ。
危機管理に失敗
まず舛添氏の人気がなぜ急速に落ち込んだかを考えたい。最も大きいのは、都民への説明の不十分さや謝罪のタイミングの悪さがあったと言える。本来、政治活動に使うべき費用を私的なことにも使っていたことは、火を見るより明らかだった。
政治資金規正法が「ザル法」であることを奇貨として、問題はあるが違法ではないと説明すれば納得される、逃げ切れると考えたのであろう。ただ、庶民感覚を甘く見過ぎた。普通の人は、国や自治体からお金を渡され「領収証があれば何でも使えます」といった類のお金を手にすることはない。
当然、首長、議員という「特権階級」に対するうらやましさと、政治家への期待がないまぜになった状況で、厳しい目でチェックしたいという心理が働いているはずだ。違法でなくとも、倫理的にも説明がつく使い方を求めるものである。
もっと早期の段階で「問題が多い使い方だった」として全面謝罪し、仕事で取り返すチャンスをほしいと言えばどうだっただろうか。舛添氏のエリート意識が、理屈で逃げられると思い、謝罪を遅らせたのだろうか。危機管理に失敗したと言わざるを得ない。
人気頼り
舛添氏は小泉純一郎首相の下で厚生労働相を経験し、民主党が政権を奪取した後の2010年に自民党を離党している。新党改革の代表に就任した頃は、メディアの寵児となっていた。世論調査でも「首相に最もふさわしい政治家」の首位に何度もなっている。人気の高い、人気を拠り所にする議員だった。
自民党、公明党に担がれて都知事に就任してからは、都市外交を繰り広げたことになっている。ただ、この豪華な海外出張からみそが付き、坂道を転がり落ちることになった。その理由は、前述した舛添氏の危機管理の甘さと同時に、都民の側の飽きの早さにあると指摘したい。
つまり、東京都の知事とは、都が抱える課題を解決できるかどうかという能力ではなく、テレビにどれだけ登場したのか、その時のしゃべりのうまさとか、いわば人気で選んできた経緯がある。それだけに、タレントの人気が急上昇すれば、急降下するのと同じように、都知事の支持率も少しのことで大きく動く。
首都の顔であるだけに、メディアの注目も高い。問題があるとなれば、週刊誌、新聞に加えて、テレビもその一挙手一投足に注目する。マイナスイメージが一度出来上がると、それを払拭するのはかなり厳しい。都民が飽きるのも、見限るのも早くなってしまうのが、人気で選ばれ、メディアの注目を集める東京知事の性である。
次は誰に
東京都とか、大阪府や大阪市といった大都市の自治体の首長には大きな共通点がある。その実務能力よりもメディアを通じたイメージで選ばれる例が多いということだ。両方のトップを見ても、舛添氏や猪瀬氏、元東京都知事の石原慎太郎氏、大阪府知事と市長と歴任した橋下徹氏のように、最近でも作家や大物の国会議員、テレビタレントらが選ばれている。
その前は漫才師やコメディアンもいた。そのはざま、政治家の人材が諸事情で払底したり、財政再建など行政的な課題がクローズアップされたりしたときには、官僚が担がれるといった法則がある。
今回は小池氏が立候補を表明しているほか、自民党東京都連は岩手県知事や総務相を務めた増田寛也氏(元・旧建設省の官僚)の名前を挙げている。前総務事務次官、桜井俊氏にも要請したが、擁立は断念した模様だ。政治家であれば「政治とカネ」の問題が付きまとうだけに、安全策から官僚に傾いているようだ。一方、民進党では長島昭久元防衛副大臣が有力候補とされているが、まだ絞り切れていない。
都知事選の告示は7月14日。10日の参院選の結果を見て、立候補者を絞り込んでも間に合う。与野党とも相手の出方を見て、後出しでも勝てる候補を出したいと考えているだけに、そう簡単には候補を決めないだろう。
ちなみに、団塊の世代が全国から集また首都圏では、高齢者の実数が急速に増えている。都が抱える最大の課題は、東京五輪といった華やかなイベントではなく、超高齢社会という未知の問題への対応である。これから介護の施設に入れない、介護を受けられない人が続出する恐れが強い。
この問題と向き合うことができる候補者を与野党とも出すべきである。そうなると、立候補できるだけの能力を持つ人は限られてくるはずだ。東京五輪に向けて見栄えだけがいい人を選ぶ「人気投票」を繰り返してはいけない。