2016.05.25 仕事術
第15回 文章作成のポイント(1)
一般財団法人地域開発研究所 牧瀬稔
前回は視察報告書を作成するに当たり、最低限押さえておかなくてはいけないポイントを紹介した。今回は視察報告書を構成する「文章」を書く際に注意すべき要点について言及する。
「書いた文章がどのように読まれているか」を考える
前回も指摘した内容であるが、文章は常に読者を意識して書くことが大事である。自分にとって読みやすい文章は、他人には読みにくい場合が多い。自分にとって読みやすい文章は「日記」である。基本的に日記は読まれることを想定しない(最近はブログと称して読んでもらいたい日記もある。しかし、読者を意識したブログでないと閲覧数は増加しない)。視察報告書は読んでもらってこそ意味がある。そこで読者を念頭に置いて、文章を作成しなくてはいけない。
文章を作成する上で重要なことは「文章をどのように書くか」ではなく、「書いた文章がどのように読まれているか」を考えることである。前回は「(報告書は)読者に伝わるように書く」ことがポイントであると論じたが、ほぼ同じ内容である。
ところで、議員はなぜ視察をするのだろうか。議会の役割として、しばしば①執行機関への監視機能と、②政策の立案機能という2点が求められていると指摘される。つまり、議員が視察に行く場合は、最終的にはこの2つの機能の強化が目的となる。
②政策の立案機能を考えたとき、その政策の読者は誰になるだろうか。きっと首長や自治体職員だろう。もちろん住民や事業者なども読者になると思われる。しかし「政策を立案(提案)して、実際に政策を実施してもらう」ことを想定するのならば、首長や自治体職員が第一の読者となる。ウェブで公開されている視察報告書を読むと、首長や自治体職員という読者を意識して、文章を組み立て作成している議員は少ないように思う(「誰を意識して作成した報告書か」が曖昧である)。
なお上で掲げた①執行機関への監視機能を強化する場合の読者を考えると、それは議会(議員)自身かもしれないし、住民かもしれない。この場合はケース・バイ・ケースで変わってきそうである。
平明な文章を心がける
アメリカの大統領のスピーチは、プレイン・イングリッシュ(Plain English)を意識して作成しているといわれる。プレイン・イングリッシュとは「平易な英語」と訳されることが多い。その意味は「明確さと簡潔さを強調し、専門用語を回避するコミュニケーション様式」である。簡単にいってしまうと、中学生でも理解できる言い回しである。アメリカ大統領のスピーチは、極めて平明に書かれている。そのため日本の中学校の英語の教材として活用されることも多い。
どんなにいい政策を立案しても、それを書いている文章が理解されなくては意味がない。そのような理由から、筆者が文章を作成するときは「中学生レベルでも理解できる」ことをモットーにしている(と書いておきながら、読者から「この文章が理解できないよ」と突っ込みが入るかもしれない……)。
筆者は、作成した文章は必ずプリントアウトをして数回は推敲している。数年前までは筆者の奥さんに読んでもらい、遠慮のない意見をもらっていた。ところが、あまりにも忌憚(きたん)なくバッサリと筆者の文章を切りまくるため、その結果筆者が大いに傷つき、今は奥さんにはチェックしないでもらっている(そこで今は部下など別の人にお願いしている)。いずれにせよ、第三者にチェックしてもらうことは大切であると思う。
余談であるが、先日、某自治体の研修講師を担当した。その講義の中で筆者が「作成した文章は、最低数回は推敲しましょう」と述べたら、担当者から「数回推敲すると残業手当が発生するため無理です」といった趣旨のことを言われた。そこで筆者が「帰りの電車の中で推敲すればいい」と言ったら、今度は「仕事は持ち帰らないように指示している」と反論されてしまった。その自治体はそういうルールとは思うが、閉口した。
話が脱線してしまったが、文章は意識的に平明さを心がけるとよいだろう。平明には「分かりやすくて、はっきりとしていること」という意味がある。この平明な文章にも、いくつか技術がある。この技術は本連載の次回で具体的に言及したい。