2016.04.25 仕事術
第14回 視察報告書作成のポイント
政策提言は複数提示する
1つの問題を1つの政策(施策や事業を含む)で解決できるのが一番よい(一番効率がよい)。しかし、今日では問題が複雑化しており、1つの政策で解決できることはほとんどない。すなわち問題に対する特効薬がない状態である。だが、特効薬はないが処方箋は多々ある。その処方箋を駆使して問題を解決する時代である。その視点で考えると、視察で得られた知見を凝縮して、1つだけの政策を提言するのではなく、複数の政策を提示した方がよいだろう。
また、1つだけの政策提言は、受け取る側の思考が「Yes」か「No」になってしまう。筆者の経験だと、1つだけの政策を提言すると多くの場合が「No」という結論になる。ところが、複数の政策を提言すると、受け取る側の思考が「どれか選ぶ」という思考回路になっていく。その結果、何かしらの政策が採用される傾向が強まる。その意味でも、政策は複数提示した方がよいだろう。ただし、複数がよいからといって10を超えて政策を提言するのはナンセンスである。筆者の感覚からいうと、提示する政策は3~5くらいがよいであろう。
また、例えばA案、B案、C案があり、B案が本命ならば、A案とC案を極論化することにより、B案を選ばせるというテクニックもあるだろう。
●視察のポイント
(1)報告書は読者を意識して平明に書く。
(2)視察の意義は議会の機能を強化することにある。
(3)視察で得られた成果は、複数の政策として提言する。
●筆者が勧める視察先
議会活動の動向について毎日新聞社(2015年)がアンケート調査を実施している。同調査は、都道府県・市区町村議会を対象に実施し、1,592議会から回答があった(対象1,788議会、回収率89%)。アンケート結果によると、2011年から4年間で、議員提案の政策条例(改正含む)を可決した議会は、全体の17%(274議会)となっている。
しかし、議員提案政策条例の多くは都道府県議会や市議会であり、町村議会は少ない。そのような中、少しずつ町村議会においても議員提案政策条例の潮流が強まっている。
・川南町地域全体でとりくむ生き活き健康づくり条例
川南町議会(宮崎県)で初めて結実した議員提案政策条例である。川南町条例は、「健康づくりに関し基本理念を定め、町民、町長及び議会の責務並びに町民活動団体等及び事業者の役割を明らかにするとともに、健康づくりの推進について基本的な事項を定めることにより、全ての町民が健やかに生活することができる地域社会を実現する」ことが目的となっている(1条)。
・飯綱町集落振興支援基本条例
飯綱町議会(長野県)の議員提案政策条例である。飯綱町議会は町民政策サポーターと議員による政策研究を重ね、飯綱町集落振興支援基本条例を制定した。
同条例は、「飯綱町集落の振興について、町の責務と町民の役割を明らかにするとともに、集落の振興に関する施策の基本となる事項を定めることにより、集落の振興を総合的に支援し、もって、集落機能を強化し、町民誰もが各集落で、いつまでも暮らし続けられる地域社会の実現を図ること」が目的となっている(1条)。
町村議会は「人・物・金という資源が少ないから議員提案政策条例はできない」とはいえなくなりつつある。今後は町村議会においても活発化してくるだろう。
なお、全国町村議会議長会「町村議会実態調査結果の概要」(平成27年7月1日現在)によると、議会基本条例を制定している町村議会は246議会(26.5%)であり、政治倫理条例を制定しているのは191議会(20.6%)となっている。
●推薦する図書
・阿川佐和子『聞く力―心をひらく35のヒント』文春新書(2012年)
書名からノウハウ集と思われるが、実はエッセイ集である。阿川佐和子氏がインタビュアーの経験を通して得た人の話を聞くためのポイントが盛り込まれている。
同書には視察に関して、様々なヒントがある。例えば「できるだけ相手の話に集中しなさい」(56頁)や「インタビューに臨む際、私は『大きな柱を三本用意する』ことにしている」(64頁)などをはじめ、インタビューに臨む際は、事前に相手が関心を持つ領域を調べたり、知ったかぶりせず分からないことは素直に聞いたり、相手にとって気持ちよい態度を心がけるなどである。一読されるとよいと思う。