2016.04.25 仕事術
第14回 視察報告書作成のポイント
一般財団法人地域開発研究所 牧瀬稔
視察報告書は読者を意識する
小見出しに「視察報告書は読者を意識する」とある。多くの読者が「当たり前じゃないか」と思うかもしれない。しかし、実際は独りよがりの報告書が意外とある。改めて読者を意識することの重要性について言及したい(報告書に限らず、全ての読み物は読者を想定して書く必要がある)。
繰り返すが、視察報告書は平明に書くことを心がけなくてはいけない。視察報告書を作成するときに「視察して得た知見を伝えたい!」とだけ思っていたら50点である。満点をとるために重要なことは「視察で得た成果が『伝わるよう』に伝えたい!」と読者を意識して作成することである。解釈の分かれる文章や意味不明な文章は問題外である。そうならないために文章表現は平明なものとする(文章の書き方のポイントは、後日紹介したい)。
筆者の文章が完全に読みやすいとはいえない。しかし筆者が文章を書くときは、具体的な読者を想定しつつ、次の言葉をモットーとしている。
文章の表現は、やさしく誰にでも容易に理解できるものである必要がある。(中略)論文は、読む人を説得できるものでなければならないのであるから、他人が読んで理解できることが必要であり、無闇に難解な論文は、良い論文とはいえない。また、論文が生硬な表現で難解な場合、書いた本人が問題を良く理解していないこともあり得る。よく理解していないから、やさしく書けないのである。
新堀聰『評価される博士・修士・卒業論文の書き方・考え方』同文館出版(2002年)14頁
上記の文章は論文を作成するときの注意点を述べたものであるが、筆者は、この言葉を念頭に置いて文章を書いている。この言葉は視察報告書にも当てはまる。視察が充実していても、そこで得た知見が第三者に伝わらなくては、政策づくりという観点からは意味がない。
視察報告書を作成するときは、常に読者を意識しよう。そして読者に「伝わるように書く」ことがポイントである。そのためには、視察報告書を作成したら、全く関係のない第三者にチェックしてもらうとよいだろう。
視察報告書の要素
視察報告書(視察概要)には、最初に基本的な情報を記載する。それは、視察日、視察時間、視察場所、視察対応者、視察参加者などである。また、この基本的な情報に加えて「なぜ、その視察先を選んだのか」という視察の選定理由も明記する。
次に、本連載で過去紹介した「10の質問」をはじめ、それ以外の質問に対する回答を書き込んでいく。特に視察概要は、質問項目とそれに対する回答を箇条書きで端的にまとめる方がよいだろう。
そして、視察から得られた知見、特に「視察のどの部分を自分たちの自治体に移転することが可能か」を書き込んでいく。移転できないと判断した場合は、その理由も書いておく。あるいは、一定の条件が満たされれば移転可能と判断したときは、その「一定の条件」を記しておく。後述するが、視察を実施する目的のひとつは政策提言である。政策提言という観点から、視察のどの部分を自分たちの自治体に移転できるか明確に記していく。
視察報告書の作成は意外に時間がかかる。与えられた時間は限られている。そこで視察報告書としてまとめる場合は、効率的に進めなくてはいけない。ここでいう効率的というのは省力という意味である。
もし読者に政務活動費が支給されている場合は、視察で録音したデータやテープの反訳(一般にテープ起こし、文字起こしなどという)は、専門業者を活用してもよいだろう。相場は、1時間当たり1万5,000円から2万円である。こういった業者に依頼した場合は、おおよそ1週間程度で文章化(文字化)される。なお業者に依頼するときは、録音データやテープだけではなく、視察先から入手した資料をはじめ、視察で使用した全ての資料も業者に渡した方が反訳の精度は高まる。
以前筆者は、「ドラゴンスピーチ」というソフトで録音データの文章化をしていた。このソフトは自分が発する声の特徴を認識すると(教え込ませると)、ある程度、自分の声は正しく文字化されるようになった。しかし自分以外の他者の声の文字化は限界があった(数年前なので、現在のソフトは改善されているかもしれない)。そこで筆者は、現在は専門業者に依頼している。筆者が1時間の視察をテープ起こしすると、5時間程度かかってしまう。1万5,000円でこの5時間の作業から解放されるのならば「安い」と判断している(テープ起こしは、筆者にとってストレスのかかる作業である)。
音声認識ソフトはいくつかあるため、試してみるのもよいかもしれない。高くても2万円以下で販売されている。