2016.04.25 議会事務局
第11回 議会基本条例をつくったらどうなるの?
議会事務局実務研究会 林敏之
自治体議員の皆様、こんにちは。今回は前回に引き続き「議会基本条例」をテーマとしてお届けいたします。平成18年に初めて議会基本条例が制定されてから10年たちました。これからは議会改革の第2ステージであるとも位置付けられています。次なるステージに向かう前に、議会基本条例にまつわる実際の現場について、取り上げていきたいと思います。議会基本条例は何のためにつくるのか、皆様で考えていただけたら幸いです。
議会事務局で条例案をつくってよ

「うちも議会改革特別委員会で議会基本条例をつくることにしたから、事務局で条例案をつくっておいてよ」
これが、おそらく多くの議会事務局職員が議員から言われた経験があろう、非常に困った依頼です。これだけ様々な議会基本条例が全国で制定されていますので、条例を制定したときに、議員の新たな負担を最大限少なくし、かつ議会改革度ランキングでポイントを上げられるような舌触りのよい条例案を事務局で作成することは確かに可能です。しかし、仮にそのように基本条例を策定しても、議会の最高規範として実質的に成り立ちません。また、おそらくはその後の改正もされることはないでしょう。そしてそのまま放置されることにより「○○議会の議会基本条例はニセ基本条例だ」、「アクセサリー条例だ」と揶揄(やゆ)されることは目に見えています。それならばつくらない方がましではないでしょうか。
条例案として議会に上程できるまで時間はかかるかもしれませんが、議員の間で議論をしたものを条文に落とし込んでいく作業を地道に行っていくことが、議会基本条例に重みを与え、結果として、その後の議会改革につながっていくものと思います。
議会基本条例をつくるとどうなるの?

すでに議会基本条例を制定している議会の条文を見ると、多くの議会で「議会報告会の開催」、「請願・陳情者の議会における意見陳述の場の確保」、「反問(反論)権」が盛り込まれています。北海道栗山町のように「今まで議会で行ってきたことを、改めて条例として明文化しただけ」ということであればよいのですが、ほとんどの議会では議会基本条例の制定を契機にこれらの活動を始めようとしているものと思います。そうなると、これまで行ってきた議員活動・議会活動に加え、議会報告会の開催等、議員の負担は必ず増えます。そのため「やってみて大変だったらやめよう」と考えたいところですが、その選択肢は、事実上ありません。なぜなら、一度議会の最高規範として制定したものを廃止することや、後退する内容を提案する場合、相当の理由が求められるからです。
さらにいえば、この条例はスパイラルアップが求められており、多くの議会基本条例では、社会の情勢に応じてどんどん改正していくと自ら明記しています。少々脅かすようですが、立ち止まって休むことは許されなくなるのです。「いやいや、うちの議会は制定後に全く改正とかしていないけれど、大丈夫だよ」という議会もあるでしょう。しかし、それは住民が議会に興味を持っていないという理由のほか、まだ注目が議会基本条例を制定することにいっていて、中身の実効性にまで注意がいっていないことも考えられます。しかし、「議員間の自由討議」は実際に行っていますか? 「議会事務局の充実」に対し、どのようなことをしましたか? など、内容について問われることが今後出てくるでしょう。
さて、何だかデメリットに聞こえることばかり述べてきましたが、議員が「欲しい!」と思った権能を入れることができるのが、この条例の最大の効果であり可能性ではないでしょうか。また実際に条例に基づいて活動を行うことによって、住民との距離は確実に近くなります。さらに、議会に対する理解不足によるいわれなき中傷が減ることも想像できます。以前、とある自治体の初の議会報告会を視察したことがありますが、住民の多くが「このような機会をつくってくれた議会に感謝する」旨の発言をされていました。議会に対する不信や誤解を解くための有用なツールとして活用できるのではないでしょうか。なお、条例を制定する現実的なメリットとして「改革に後ろ向きな議会」とのレッテルは貼られにくく、一種のお守りのような効果は高いと思われます。