2016.03.10 仕事術
イチからわかる! 予算編成と決算分析(上)
第3セクター研究学会会長(前・東北公益文科大学大学院教授) 出井信夫
はじめに
(1)地方財政への関心の高まり
これまで、筆者は、大学学部、大学院や自治体職員の研修などで、地方財政分析を中心に講義・講演をしてきました。近年は、地方議会や議員研修などにおいてもお話をする機会が増えてきました。その背景には、地方財政分析に関する地方議会議員諸氏の関心の高まりがあるといえます。
また、先進的な自治体においては、市民や議会議員等が中心となり、『○○市財政白書』と題するような『○○市の財政実態分析報告書』が刊行されるような動きが出てきました。こういった実態報告書が作成されるなど、地方財政に対する市民の関心が高まった背景については、次のような要因が挙げられます。
まず、平成15年にNHK広島局による特別番組『ふるさと発スペシャル まちが“破産”しないために―検証・自治体財政―』(1)が放送されました(平成15年10月25日)。これは「政令指定都市広島市が財政再建団体へ転落する」という衝撃的な「財政破綻非常事態宣言」が発表されたことが契機でした。同番組は、「市町村合併と財政問題」の観点から自治体の財政危機や破綻懸念など自治体財政の課題が詳解されました。中でも広島県大竹市の市民グループが、自発的に「行財政システム改善推進委員会」を結成して、市の財政分析を行うと同時に、大規模な分譲住宅開発計画は実現性に乏しいことから中止を市当局に提案し、最終的に市長や議会はこの市民グループの提案を受け入れて事業が中止されたことが紹介された放送で、一般市民の関心が一気に高まりました。
また、平成16年4月、財政状況が課題となり長岡市と見附市が合併をとりやめるということがありました。その際に筆者の著書を読んだ見附市の市民より「財政状況に問題がある長岡市との合併は見合わせることになった。しかし、本当に今後とも見附市の財政は大丈夫なのか、懸念される面がある。一般市民を対象に、予算・決算書の見方や市町村財政の分析方法などを平易に解説してほしい」との依頼が筆者に来たこともありました。拙著『自治体財政を分析・再建する』(大村書店、2002年)をお読みになったことがきっかけでした。その当時はこの依頼を受け、「3時間でわかる市町村財政分析」と題した講演も実施しました。
さらに、平成18年6月には北海道夕張市の財政破綻が明らかになり、当時マスコミで大きな話題になりました。このように広島市の財政再建団体への転落から夕張市の財政破綻などといった一連の流れは、自治体の地方財政運営に関する市民の高い関心を醸成してきました。
このように、筆者の著書発刊が嚆矢(こうし)となり、その後、複数の著者による地方財政分析に関する類書が複数冊刊行されたことによって、自治体の財政分析が一般市民にも容易に比較分析が可能になったことが、市民の関心が高まった大きな要因として挙げられます。
(2)地方議会議員の予算・決算審議における参加認識の重要性
昨年(平成27年)4月の統一地方選挙で新しく自治体議員となられた方にとっては、本年3月が初めての予算審議の議会参加となります。また、議員職を2~3期務めた中堅議員の方においても、必ずしも地方財政に精通されている方ばかりではないように見受けられます。
本稿は、『議員NAVI』編集部から入門的に“地方財政の初心者”に向けて、「予算編成と決算分析のポイント」について、わかりやすく解説をしてもらいたいと要請を受けて執筆したものです。昨今の地方財政を取り巻く厳しい状況においては、当然、地方議会議員各氏においても自治体職員と同様に、地方財政に関心を持つと同時に精通することは、必然的に時代の要請であるといえます。
本稿は、①予算編成・決算分析の審議における議会の役割、②「予算委員会」審議のポイント、③「決算委員会」審議のポイント、④自治体行財政運営の今後の課題(新地方公会計、財政健全化法の改正や資産老朽化比率の導入等)のような視点から、とりわけ、基礎的自治体である「市区町村の議会」議員諸氏を対象として論述したいと思います。