2016.02.25 仕事術
第12回 視察を経ることで、政策提案はより深化する
視察の利点
筆者は、自治体職員を対象に政策提案を目的とした中長期の研修を実施している。職員が政策提案をする先は「理事者」である。職員は月に2回ほど集まり、具体的な政策を検討していく。ここで「研修」と称していることから、担当課は研修部門と考える読者が多いだろう。しかし、必ずしも研修部門ではなく企画部門が担当することも多い。その理由は、政策提案が目的となっているからである。
このような研修は、政策づくりのOJT(On-the-Job Training)と指摘できる。OJTとは「職場で実務をさせることで行う職員のトレーニング」を意味する。OJTは「職場の上司や先輩が部下や後輩に対し、具体的な仕事を与えて、その仕事を通して、仕事に必要な知識・技術・技能・態度などを意図的・計画的・継続的に指導し修得させることによって、全体的な業務処理能力や政策形成能力を育成する取組」である。本来は、職場の上司や先輩が部下や後輩に対して指導することになる。しかし、政策提案を伴う中長期の職員研修では講師が参加者に対して指導する形態をとる。
昨今では様々な理由から、政策づくりのOJTの機会がなくなりつつある。そこで「研修」という名目で、政策づくりのOJTを進めている現状がある。筆者が関わった団体では、秋田県、磐田市(静岡県)、鎌倉市(神奈川県)、町田市(東京都)、丸森町(宮城県)、三芳町(埼玉県)など多数ある。筆者の中では「多数ある」といえるが、全自治体の中では少数である。このような研修はもっと広がってもよいと思われる。
過去、筆者は様々な自治体で中長期の政策提案を伴った研修を実施してきた。その中で最近、実感していることは、「視察の効果」である。視察に行かなかったときと、視察に行ったときとでは、提案される政策案に大きな差があると感じている。視察に行かない状態で政策提案をすると、その政策案が机上の学問の領域にあり、正直「まだ甘い」と思ってしまう(当事者に直接「その政策案は使えないよ」とコメントすると落ち込んでしまうし、場合によっては信頼関係をなくしてしまうため、やんわり遠回しに「甘いよ」と伝えている)。
視察を経験した政策案の方が現実的であり、実際に「使える」状態になっている。その理由は、視察先に行き、実際に動いている状況を把握することで、検討している政策案が具体的にイメージできるのだと思う。また、視察先の担当者から得られる様々な知見が、提案する政策案を補完することにつながっていくのだと思う。
そのような理由から、視察には絶対に行った方がよいと思っている。ところが、自治体職員の場合は、意外に腰が重く、なかなか視察に行こうとしない現状がある(「腰が重い」のではなく、視察で1日つぶれることによる業務の停滞を気にすることもあるようだ)。
現場に行くと様々な発見がある。費用が許せるならば、積極的に視察に行くとよいと思う。視察先は自治体に限らず、民間企業やNPO団体でもよいだろう。
●視察のポイント
(1)視察が終了したら、早い段階でお礼状(メールでも可)を送った方がよい。
(2)本来「視察は無料ではない」ということを認識する必要がある。
(3)政策提案は視察を経験した方が深化・進化する。
●筆者が勧める視察先
今回、視察に対して有料の自治体を言及した。現在、視察を有料化している自治体には、亀岡市、平泉町、夕張市がある。一度、有料化している自治体に行くのもよいと思われる。
ただし、相次ぐ視察を避けるため有料化している場合もあるため(「有料化」することにより視察対象から外れる傾向がある)、その場合は、先方と相談して時間がとれる時期に伺った方がよいだろう。
●推薦する図書
・山崎亮=studio-L『山崎亮とstudio-Lが作った 問題解決ノート』アスコム(2015年)
筆者の私見かもしれないが、山崎亮氏の図書は「厚い」印象がある。山崎氏の文章は読みやすいのだが、文字が多く読書に慣れない方は引いてしまう傾向がある。しかし、同書は文字が少なく読みやすい。同書はボリュームが薄いが内容は厚い(濃い)。
政策づくりや地域振興等に初めて関わる方にとっては、とてもよい図書と思う。要点は「どんな大きな問題も細分化すれば、答えは見つかる」に集約される。イラストを多く用いて平明に書かれているため、政策づくりを始めようとする方にはお薦めである。