2016.02.25 仕事術
第12回 視察を経ることで、政策提案はより深化する
一般財団法人地域開発研究所 牧瀬稔
視察後にお礼状を送付しているか?
結論から先にいうと、視察を終えた後は早い時期に「お礼状を送付した方がよい」と思う。「お礼状」という3文字だと重たい感じがするが、必ずしも書面によるお礼状でなくても、メールで感謝の気持ちを伝えておけばよいと思う(ただし、議会として伺ったときは議長名で作成した方がよいだろう。委員会で視察した場合は委員長名でお礼状を送付した方が無難である)。
視察は、現場に行き話を聞いたら終わりではない。しっかりと成果としてまとめなくてはいけない(そして、その成果を自分たちの自治体に生かさなくては意味がない)。視察の結果をまとめる段階で、きっと視察先に尋ねることが多々出てくると思われる。その際、視察先に一度お礼を伝えておけば、心理的なハードルが下がり、スムーズに再質問しやすくなる。また改めて抱いた疑問を確認することも容易になる。その意味で、視察後の早い段階で、お礼状は送っておいた方がよいだろう。
筆者は、視察に伺った後にお礼状(メールを含む)を送るのは当たり前だと思っていた。しかし実際は、そのようなことは少ないようだ。筆者は様々な視察(ヒアリング調査やインタビュー調査を含む)を受けるが、その後にお礼状が届くのは10件のうち1件くらいである。余談であるが、筆者が議員を対象としたセミナーで講演すると、必ず多くの議員と名刺交換をすることになる。しかしその後、議員からメールが届くことはほとんどない。個人的に「何のために名刺交換しているのだろう?」と疑問に思っている。
筆者が視察を受けても、ほとんどは翌日から連絡はない(もちろん、お礼状が欲しくて視察を受けるわけではない)。そのような現状において、視察後にお礼状が届くと、とてもうれしくなり「今後も協力しよう(協力したい)」という思いが芽生えてくる。視察をよく受ける筆者自身がそのような気持ちになるのだから、視察した場合は必ず先方にお礼の気持ちを伝えるべきであろう。
視察は無料か?
多くの視察は無料である。視察が有料ということはほとんどない。そのため「視察=無料」と考えてしまいがちである。しかし、視察先自治体が視察を受け入れるに当たって、その費用が全くかかっていないということはない。実は多大な費用が投下された結果を、私たちは無料で視察しているのである。
例えば、筆者がヒアリング調査やインタビュー調査で話す内容は、様々な図書を読んだり(図書購入費)、多くの現地を訪問したり(旅費)、多くの考察をしている(人件費)。その一連の過程を経て登場した考えである。多くの時間や費用等がかかっている。これは自治体も同じである。その結果を、筆者のもとにヒアリング調査やインタビュー調査に来る人たちは無料で得ることになる。そのように考えると、視察は本来有料であるべきと考えられる。一般的に「視察は無料」と思われることが多い。しかし、実はそうではないということを知らなくてはいけない。
そのような理由から、昨今では視察を有料にする動きも登場している。例えば、亀岡市(京都府)は「セーフコミュニティ推進事業」と「亀岡カーボンマイナスプロジェクト」の視察は有料としている(90分3,000円~となっている)。平泉町(岩手県)は、視察者1人当たり2時間で1,000円を徴収している。ただし、視察者が町内で宿泊する場合は経済効果が期待できるとして視察料は無料にしている(「平泉町行政視察に伴う費用徴収等に関する要綱」)。夕張市(北海道)も、財政再生計画に関する視察は有料にしている。
以前は、横浜市が視察を有料化していた。職員意識の改革や庁内分権など全国に先駆けた取組で、他の自治体の関心が高い政策項目を視察する場合は有料であった。料金は視察者が1人の場合は90分5,000円であり、1人増えるごとに1,000円を追加していた。
横浜市は視察だけではなく、アンケート調査への回答も有料としていた。それは1件50項目以内なら3,000円であり、10項目増えるごとに1,000円追加していた。同取組は「横浜バリュー」といわれている。視察やアンケート調査に対して費用を徴収する理由として「視察対象となる事業は横浜市が努力を重ねて生み出した独自のノウハウであり、その提供(視察)にも準備を含めて人件費が発生していること」としていた。
筆者がニュージーランドにある自治体を視察したときは、約6万円を視察料金として自治体に徴収された。これは高すぎる感じがしないでもない。しかし、それだけ視察の内容には、私たちが考える以上に費用がかかっているのだと思われる。
話は変わるが、視察した場合はできるだけその自治体内に宿泊した方がよいと思う。その自治体内に泊まることで、地域経済に貢献することができる。筆者は視察をはじめ、講演や研修に伺ったときは、現地に宿泊することで自治体にお金を落とすようにしている(そのため1年間の多くをホテルで暮らすことになっている)。さらに、筆者はふるさと納税も活用している。筆者が視察したり、講演や研修をして訪れた自治体で泊まることができないときは、ふるさと納税による寄附をしている(ただし、クレジットカード決済が可能な自治体に限る)。
視察は、本来は無料ではないと考える。視察先のご厚意により「無料にしていただいている」という意識を持つことが必要と思われる。