2016.01.25 仕事術
第11回 視察のための質問ポイント(7)~視察事例における推進体制も把握する~
一般財団法人地域開発研究所 牧瀬稔
これまで、筆者が視察する際に必ず尋ねる質問項目を例示してきた。今回は9問目と10問目を言及したい(次回からは、視察に関して違う観点を紹介していく)。また、最近はやっているシティプロモーション(シティセールス)の概念を簡単に紹介する。
視察時に確認したい10の質問
【問9】この事業を進める際の体制(態勢)について教えてください。
視察では、視察対象である政策(施策や事業を含む)を実施した際の“推進体制”を把握する必要がある。ここでいう「体制」とは、庁内体制に限らず、視察の内容によっては庁外の各主体との連携体制も含む(その場合は、どこが中心的な役割を果たしているかも確認する)。
庁内体制は、正規職員の数だけではなく、非正規職員も含めた人員数を把握する。またそれぞれの役職(役割)や担当業務も押さえておく。そして、その体制が自分たちの自治体に移転可能かどうかを検討する。なお、筆者は、視察の最中に先方に「どのようにしたら移転可能性が高まるか」と直接聞くこともあるが、先方から得られた見解はあくまでも参考意見である。視察後に、改めて自分自身で移転可能性を考察することはいうまでもない。
余談であるが、「体制」は「統一的、持続的・恒久的な組織・制度」を意味する。一方で「態勢」と記す場合は「一時的な対応・身構え」である。ここでは「体制」と言及したが、場合によっては視察先の「態勢」の把握になるかもしれない。そのほか「たいせい」と読む言葉には「体勢」と「大勢」もよく登場する。「体勢」とは「体の構え・姿勢」を表し、「大勢」は「大方の形勢、物事の成り行き」を意味する。「たいせい」という4文字は様々な意味がある。
なお、今回例示した「たいせい」に限らず視察中に言葉が不明確と感じた場合は、しっかりと確認した方がいいだろう。そのほかにもよく間違われる言葉として「規程」と「規定」や「科料」と「過料」などがある。視察中に「この言葉はどの漢字なのだろう?」や「どのような意味で使用しているのだろう?」と少しでも疑問に思った場合は、遠慮なく確認した方がいい。「そんなことは恥ずかしくて聞けない」と、プライドの高い読者もいるかもしれない。しかし「聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥」である。ちなみに筆者は滑舌が悪く、「条例」と言ったのに「条件」と捉えられたりする。この言葉の間違いを防ぐために、筆者はヒアリングに来た方に対し「復命書を作成した場合は、一度チェックさせてほしい」と依頼している。そして筆者が視察した場合は「視察報告書を一度、確認いただけますか」ともお願いしている。読者が視察に伺い、復命書等を作成したのならば、視察先にチェックをお願いするとよいと思う。
また、視察する政策がどこの部門に所属しているのかも確認しておく必要がある。その理由は、部門により体制も異なってくるからである。視察事例を担当している部門により、当然、政策の取り組む方向性にも違いが出てくる。この点についてシティプロモーションを使って、以下例示したい。
昨今では、シティプロモーションを展開する自治体が多くなりつつある。このシティプロモーションは様々な要素が入っているため、自治体により推進している部門が異なっている。筆者の調査によると、多くは企画部門に担当課・係が設置されている。しかし、場合によっては観光部門や総務部門、中には都市部門に置いている事例もあった。そして設置される部門により、シティプロモーションの目指す方向性も異なってくる。
シティプロモーションが企画部門にある場合は、一般的に認知度の拡大や定住人口の増加を目指していることが多い。一方で観光部門の場合は、定住人口ではなく交流人口(特に観光客)の増加促進が中心となる。総務部門の場合は、シビックプライド(住民の愛着形成)や情報交流人口の獲得を志向しているケースが多い(それぞれの用語の意味については後半で言及する)。
筆者は、シティプロモーションの担当が都市部門に置かれている事例をひとつだけ見つけた。その理由を問い合わせると「都市計画の観点からハードの街づくりを実施しているため定住促進も担当するようになり、都市部門に設置している」という回答であった(また企画部門や総務部門等が担当してくれなかったため、結果として都市部門に来てしまったという本音もあった)。このように視察内容が何部門にあるかも把握しておくと、政策案を検討する際に役立つだろう。なお本連載でシティプロモーションについて何度か触れてきた。しかしシティプロモーションについての概要は言及していなかった。本稿の後半で、簡単に言及することにしたい。
話は戻るが、しっかりと政策の推進体制について把握する必要がある。そして、その体制が自分たちの自治体に移転できるかも検討していく。そして体制の移転とともに、視察先の担当職員が持つ「心意気」も一緒に移転していくことが求められる。
【問10】その事業を進めるに当たり、苦労した点は何ですか?
筆者が視察に赴く際には、必ず「その政策を進めるに当たり、苦労した点は何ですか?」ということも尋ねている。この質問のねらいは、視察した政策を移転し、実際に展開するときに、同じ苦労はしたくないからである。また事前に苦労を把握しておけば、その苦労を避けて政策を展開することができると考えるからである。
そして何よりも苦労の中に様々なドラマがあり、聞いていてとても参考になる(言い方に語弊があるが、そのドラマがとても面白いのである)。さらにいうと、類似の政策を数自治体に視察に行くと、だいたい苦労も似ていることがある。つまり苦労は再現されやすい。前回「視察した自治体が経験した失敗は反面教師として捉え、同じ轍(てつ)を踏まないことが大切である」と言及した。失敗した経験だけではなく、苦労も反面教師として学ぶ必要がある。
ことわざに「歴史は繰り返す」(History repeats itself.)がある。古代ローマの歴史家クルティウス・ルフスの言葉とされている。このことわざは「過去に起こったことは同じような経緯をたどって再現される」として使われることが多い。確かにことわざにいう傾向が多く見られる。しかし厳密に考えると、「それは違う」と筆者は思っている。同じ歴史が繰り返されるのではなく、歴史をしっかりと学ばなかった人間が、結果として同じ歴史を繰り返してしまうというのが実態ではないか。そこで、視察に行ったのならば、失敗事例や苦労した点もしっかりと把握し、自分なりに「それを繰り返さないためにどうすればよいか」を考えて、視察事例の移転を進めていく必要がある。